M&Aは日本企業の必修科目に ~「縮む」日本を超えて成長するために~

M&A 成功のためのキーワード

① 「縮む」日本に打ち克つ、成長への渇望。毎年5%の売上成長を目指す。買ってでも成長する

② コア事業において相対市場シェアをあげるM&A戦略を立案する

③ 自らのコアケイパビリティを認識し、買収企業にも提供できる「型」を持つ

④ 案件の数をこなして習熟する。そして大型案件に臨む

⑤ 自社版M&Aプレイブックを策定し、M&Aのアプローチを組織知とする

⑥ 本社の統括部門ではなく、事業の価値を生んでいるところに権限を与える組織設計を行う

⑦ グローバル規格のパフォーマンスマネジメントシステムを構築、導入する



次の10年、M&Aは日本企業の必修科目に 

日本では高齢化、少子化、その結果としての人口減少はすでに長期にわたって進行してきており、今に始まった現象ではない。当然、人口減少は長期的にみれば市場の縮小をもたらすが、日本全体としてまだ「縮み」を本当に実感しているわけではないように思われる。最近メディアでもこの問題が大きくとりあげられ、危機感は高まりつつあるが、2025年までの今後の10年で日本は本当に「縮み」を実感することになる。その意味でこれまでの10年とはまるで異なる10年間を日本企業は乗り切っていかなければならない。

日本の人口減少が言われてから久しいように思われるが、2003年から2013年までの10年間の人口推移を見てみると、実は35万人(0.3%)しか減少していない。しかし、2013年から2023年までの10年間では、日本の人口は現在の四国四県の合計にほぼ相当する約500万人(3.9%)減少すると予想される。過去10年間の合計減少数を上回る50万人がこれからの日本では毎年減少していく計算であり、これは関東近郊で言えば、例えば栃木県宇都宮市程度の規模の都市が毎年一つ消える勘定にあたる。

さらに、一人当たり支出の増加により、実は過去10年間では国内消費支出は152兆円から157兆円へと3%程度増えていたが、我々の試算ではこれが2025年までに約13兆円(8%強)減少すると予測される。その背後にあるのは、既に起こりつつある一人当たり所得の減少の結果、資産形成も進まず、さらに退職後の年金も減額されたシニア世代が増えるという極めて頭が痛い事実である。

こうした長期的構造変化以外にも、次の10年で日本企業が取り組むべき課題がある。図1を見て頂きたい。これは2008年を境にした、S&P500の企業と東証上場企業の売上と利益の伸びを比較したものである。

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S&P500の企業群をみると、2008年以前は売上成長が利益成長の源泉となっていたのに対し、近年は売上成長よりもコスト削減が利益成長をけん引していることがわかる。これに対して日本の東証上場企業は、2008年以前から既にコスト削減を積極的に推進して増益に努めており、その傾向は近年も継続しているが、一方で売上成長は限りなくゼロに近くなっている。

もちろん、同期間中はリーマンショックや円高等のマクロ要因により売上成長が難しかったという事情は存在している。ただ、現在の株価から示唆される今後数年間の期待売上成長率は、まだ市場成長も織り込むことができた1995年以降の20年間の実績よりも5倍近く高い水準となっており、こうした市場の期待に応えるためには、もはやコスト削減に頼った利益成長は限界にきている。売上成長の追求は今そこに求められる最重要経営テーマとみるべきであろう。

また、特に日本企業のバランスシートには、リーマンショック以降にリスク対応のために積み上げられた巨額の現預金がある。経済環境が一定程度好転したといわれる昨今でもこの現預金が大きく減少しないのは、それだけ従来のやり方では成長に向けた投資機会がみつけられていないということを示唆している。あるいは、前述のような「縮む」日本にあって、経営の目線も縮んでいるということはないだろうか。

このような「縮む」日本で成長するために避けられないテーマは、国内の業界再編と統合の推進であり、海外市場への本格展開とそこでのリーダーシップの獲得であろう。そしてこれらを推進して売上成長のエンジンとするうえで、次の10年の日本企業にとってM&Aは選択科目というより必修科目となる。

もっとも、ここで留意すべきは、手元に有り余った現預金にものを言わせて闇雲にM&Aに予算を振り向けるだけで結果が出るわけではない、という現実である。M&Aを持続可能な成長につなげていくためには、「出物」重視でとにかく何でも買収するのでも、M&Aに食わず嫌いになるのでもなく、持続可能なM&Aの成功法則を獲得することが重要となる。以降、この必修科目としてのM&Aを持続的に成功させるためのポイントを、事例とデータを挙げてご紹介したい。

経験を積んで大型案件に臨む

ベイン・アンド・カンパニーでは日本の上場企業826社を対象に、2003年から2013年の10年間にこれらの企業が行ったM&A案件の頻度や規模と時価総額の関係について分析を行い、M&Aを成功させるための条件についての考察を行った(図2)。

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縦軸には買収頻度、横軸には累積取引額と時価総額の比率をとって企業をマッピングしてみると、右上の「登山家企業」の象限に入る企業、すなわち過去10年間にわたって年間平均1案件以上という頻度で、かつ累積すると自社の時価総額の75%以上を超える規模の案件を買収している企業の株主還元率が、同期間の全サンプル企業の株主還元率よりも有意に高くなるという結果が得られた。M&Aを多用し、M&Aのやり方を習熟しながら、大きな案件も取り組んだ企業のリターンが高いということである。

M&Aの世界は、日常の企業活動からみれば明らかに「非日常的」な活動である。したがって、なかなか習熟が難しい。数を多くこなし、習熟度をあげた企業が大きな案件も成功させるというのはいかにも納得できる。通常の企業では経験し得ないような数と種類のM&A案件の経験を有する外部のアドバイザーが、企業の経営者にM&Aに関してアドバイスする価値もそこにある。日本企業のM&Aの活用頻度は米国や英国、フランスといった先進国のそれと比べて極端に低く、インド等の新興国とほぼ同水準である。そのような企業が社運を賭けた大博打のような案件に臨んだ場合、うまく行くこともあるが、失敗のリスクも極めて高い。まずはM&Aの頻度を高め、こつこつと経験を積むことが重要である。

また、企業によってはせっかく貴重なM&Aを行っても、これを体系的なスキルとして社内に蓄積させる努力をせず(あるいは仕組みを持たず)、かつ人事異動で経験者を分散させ、その経験を十分に活かしきれていないケースも散見される。M&Aに関連する経験や知識をいかに組織の知恵として定着させるかには、大いなる改善の余地がある。こうした企業に対してベインでは、自社の過去のM&A活動を紐解き、どこがうまくいったか、何がうまくいかなかったかについての「事件簿」を作り、ベインが持つグローバルなM&A成功事例と照らし合わせながら、その企業独自のM&Aプレイブックを作り、全社的に展開することをお勧めしている(図3)。

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コア事業を強化、発展させるためのM&A

図2で示した四象限で右上に属する「登山家企業」の深堀をさらに進めてみよう。「登山家企業」の中でも市場平均よりも高い成長率をあげている企業とそうではない企業の差を分析すると、その違いは明白だ。高成長を達成している企業は、自社のコア事業あるいはコア事業の近隣にある事業を買収している案件の割合が約60%であり、成長率が低い企業が行った案件に占める35%に比べて高いことがわかった(図4) 。

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これは買収以外も含めて事業拡大の成功確率をコア事業からの距離との関係で分析したベインの別の分析結果とも合致する。顧客、コスト、チャネル(販路)、ケイパビリティ(特定のスキル、能力)、競合のそれぞれの観点から、新規事業のコア事業からの乖離度合いと成功確率を分析すると、コア事業からの距離が1歩の場合(第一周辺領域)の成功確率が3~4割なのに対し、2歩離れた第二周辺領域では1~2割、第三周辺領域になると1割以下と、飛び地になればなるほど成功確率が低いのだ。

我々の過去のプロジェクト経験でも、コア事業と離れた事業領域の企業を買収した事例では軒並み大変な苦労をしているといえる。「買収は時間を買う」と言われるが、むしろ買収後の収益悪化に直面し、時間をロスしているケースが多い。その理由は明らかだ。売上や利益の嵩上げのために、自社のコア事業とは異なる事業を買収しているような場合、買収時のデューデリジェンスにおいて評価がうまく出来ないことが多い。あるいはそもそもビジネス・デューデリジェンスが行われていないという例も少なくない。このような場合は結果的に買うべきでない事業を、払うべきでない価格で買うことになりがちである。たとえそうでなくとも、買収後に親会社としての価値を加えることも出来ず、投資先からの信頼を得ることもできない。さらに、経営管理方法も自社のコア事業の管理手法と異なったりすると、親会社として複数の手法で経営管理を行うことになり、経営の複雑性が増してしまう。結果的に投資先の状況がよく見えなくなり、意思決定も遅れ、さらに投資先からの信頼を失うという悪循環に陥りやすい。投資先とのコミュニケーションにギャップが生じがちな海外買収案件の場合は、こうしたリスクがより顕著にあらわれる。コア事業の近くで、自らが正しい目利きと、買収後の価値向上を為しうる事業に投資すべきである。

デューデリジェンスや統合の容易さに加え、コア事業に出来るだけ近い場所で圧倒的に強くなる、つまり相対市場シェア(業界1位プレイヤーの売上は業界2位の企業の売上の何倍の規模か、業界2位以下のプレイヤーの売上は業界1位の企業の何倍か、で表した数値)を高めるためにM&Aを推進することは、企業のリターン向上に直結する(図5)。

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これをベインではリーダーシップエコノミクスと呼んでいる。どの地域で、どの製品カテゴリーで、どのチャネルで圧倒的な存在となり、リーダーシップエコノミクスを享受するのか、そのためにどのような企業を買収するのかという戦略立案が急務であり、その実現のための必須手段としてM&Aを頻繁にかつ大胆に活用していくことが必要なのである(図6)。

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一方、コア事業とは単に「売上が大きい事業」を指すわけではない。コア事業とは、他社と自社を差別化する源泉となるコアケイパビリティに裏打ちされた事業のことである。ベインでは企業のコアケイパビリティを15類型に分類している(図7)。

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これらのすべてに優れている必要はなく、このうちの3~5の要素において他社に秀でるものが存在し、それが有機的に複合してビジネスモデルとして収益を支えていることが明確であることが重要である。親会社としてのコアケイパビリティが明確であることは買収先に価値を加える、ひいては買収先経営陣からの尊敬も勝ち得るためのカギなのである。したがって、ベインではM&Aを検討している企業にコアケイパビリティ診断を行うことを推奨している。特に海外企業の買収ということになると事業の距離に加えて、地理的、文化的な距離が広がり、より一層複雑となる。海外事業の買収であるなら、この地理的、文化的な距離も乗り越えてしまう明確なコアケイパビリティに裏打ちされた、コア事業に近い事業の買収をまずは検討すべきであろう。

海外企業マネジメントのためのガバナンス

海外企業の買収は、国内でのM&Aに比べてより難易度が高い。しかし、成長を目指す日本企業にとって海外企業の買収は待ったなしだ。その理由をもう一度、図2に戻って考えてみよう。調査対象期間でみれば、実はM&Aに積極的に取り組んでいなかった企業(「非積極的企業」、あるいは「選択的補充企業」)の株主還元率も決して低いわけではない。この数字だけをみれば、M&Aに取り組む必要も無いという議論も成り立ちそうにみえる。確かにこの「非積極的企業」あるいは「選択的補充企業」の中にも好業績を残している企業がある。しかし、これらの企業を個別に見ていくと、小売業、卸売業、建設業、B2Cサービス業など、内需型の企業が多いことがわかる。「非積極的企業」ではその割合は6割強にも及ぶ。冒頭に述べたような今後の日本市場の縮小を考えると、こうした企業が内需に依存して収益をあげることは今後ますます難しくなり、またこうした内需型の企業が海外展開を加速するためには、そのローカル性の高い事業特性上、M&Aが非常に有力な選択肢となってくる。

また、図2の「登山家企業」とそれ以外の企業を比べると、「登山家企業」の買収案件に占める海外M&A案件の割合は約5割と、それ以外の企業の1.5~2倍ほど高い。こうした点からも、M&A推進がもはや「オプション」ではなく必須検討事項であり、その中でも海外企業の買収は避けて通れないアジェンダであるといえよう。

日本企業が海外企業を買収した際に共通して苦労するのは、買収した会社のマネジメントである。よくある事例では、まず買収した企業を管理するための部署、あるいは統括会社が設置され、担当の日本人が配置される。さらに、現地会社に日本人が出向者として送り込まれる。しかし、その担当役員、担当者とも、自分の経験した範囲のことは勘が働くが、会社経営全般に関与したことはなく、また現場のこともリアルにはわからないことが多い。したがって、現地の経営陣と対等に議論することも難しく、結局、現地の経営陣から上がってきた一部の情報を本社向けに多少加工して報告するだけの、伝声管的な役割しか果たせない。またこうした報告を受けた本社側の経営者は、さらに現地から遠いので、現場で本当に何が起こっていて、何が課題なのかがよくわからず、担当者に聞いても、伝言ゲームをしているだけなので答えられないという事態になる。結果的に、本社からは現場を理解するためにさらに細かい質問が現地に投げかけられる。日本人社員ではない現地の被買収会社の経営陣からすると、なぜ本社がそれほどまでの詳細情報を求めるのかがわからず、任せられていないのかと不信感を抱く。現地からみれば、本社は細かいことに口を出すばかりで何の付加価値も加えていないとフラストレーションがたまり、求められたこと以外の情報を積極的に出そうとせず、送り込まれた出向担当者とも協働を進めない。そして本社はさらに不安と不満を募らせる―。

このような状況を脱却するためには、まずは事業の価値の源泉に合わせた組織及び権限のデザインが必要である。ビール業界の事例であるが、同じビール会社でも、現地市場のローカルブランドを買収し市場寡占を進めるアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)と、グローバルブランドをローカル市場にプレミアムポジションで導入する事を重要視するハイネケンの権限配置を比較してみよう。ABIはローカル市場でのシェア向上が価値創造の源泉となるため、ローカル市場の長が大きな権限を持つ。一方、ハイネケンの価値創造の源泉は商品ブランドのプレミアムであるため、中央のブランドマネジメントにより大きな権限が与えられる。日本企業をみてみると、親会社が子会社を「管理」するという観点で組織設計をするので、価値を生む現場や機能以外の管理部門が権限をもち、意思決定の質やスピード、歩留まりに難を生じるケースも散見されるように思う。

次にその組織や権限を前提にした時のグローバル規格のパフォーマンスマネジメントの導入が重要である。戦略、目標設定、予算化、フォーキャスティング、効果的な意思決定のための会議体の設計、評価、これと連動した報酬体系において、親会社と現地法人の現地人責任者とが、パフォーマンスマネジメントの仕組みについて共通の理解を持ち、これに着実に則った運営をすることが必要である。その仕組みを構築する上で重要なのは、業績を左右する重要な指標、例えば相対市場シェアや、消費財であればカテゴリーのプレミアム度合い等の指標を共通言語化し、業績指標をこの共通言語で論理的に説明できるようにする事である。パフォーマンスマネジメントの基軸となる指標やロジックが見えることが、透明性確保の基本である。その中身は各企業によって異なるであろうが、その企業のグローバル規格として、新たにグループ入りした企業には例外なくその仕組みを導入するという覚悟を持って、買収先企業とその経営陣に相対することが重要である。また、親会社がこれらの指標について現地法人からの情報だけでなく、客観的な情報を収集し、現地法人とは違う戦略的な目線を持って初めて、親会社と現地法人との建設的な会話が成り立つのである。

「買ってでも成長する」くらいの成長への強い渇望を持つ

これまでM&A成功の要件を述べたが、そもそも必要とされるのは企業として高い成長を渇望する経営の意思である。冒頭に述べたように、今後の日本は目に見えて縮小し、そしてその縮小傾向はほぼ避けることができない。これを認識しつつも、それに打ち克つような高い成長を遂げる意思がなければ、変革も行われず、結果は出てこない。1990年以降の日本の上場企業の業績を、売上成長と利益成長の両面から、平均以上の企業と平均以下の企業に分けると、平均以上の成長を遂げている企業は、売上、利益ともに平均して年率約5%の成長を実現している。一方で平均を下回る成長しか実現できていない企業をみると、その年平均売上成長率はほぼ0%である。これは同期間の日本の可処分所得の伸びとほぼ同等、すなわち日本市場の伸び悩みに身の丈を合わせて自らも萎縮していたということになる。今後、市場の縮小が加速することを考えると、一緒に縮んでいては企業の将来は無い。買ってでも成長するくらいの思い切りが必要なのだ。

火浦俊彦は、ベイン・アンド・カンパニーの東京オフィスの会長兼パートナーで、M&Aプラクティスのリーダーです。奥野慎太郎は、ベイン・アンド・カンパニーの東京オフィスのマネージング ディレクターで、 戦略プラクティスのリーダーです。

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