意思決定、素早く的確に ~提言の実現度高めるコツ/妥協なき本質的な提案を~

皆さんの周りで、意思決定を迅速にするために行った組織改革が結果的に意思決定をさらに複雑にしたり、意思決定を円滑にするため角の取れた提案にしたにも関わらず、さほど意思決定の迅速化や具体的な成果に繋がらなかったり、ということが起きていませんか。これらはすべて、企業の意思決定力とその改善のためのアプローチに問題があることを示唆しています。

企業の競争力というと、製品開発力、販売・マーケティング力、コスト競争力などに関心が集まりがちですが、これらとならんで企業価値に強い相関があるのが意思決定力なのです。ベインが日本企業120社を含む世界の大手企業760社を対象に行った調査によると、意思決定力と企業業績には極めて強い相関があることがわかりました。ここでいう意思決定力とは、意思決定の①質②スピード③実行歩留り④費やす労力の4つの要素で決まります。これら4つをそれぞれ100%で指数化し、これらを掛け合わせた指数をベインでは意思決定有効性スコアと呼びます。

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これが企業の売上成長率、投下資本収益性、株主リターンと極めて高い相関を示したのです。興味深いことに、この分析では多くの企業において意思決定力の改善により業績を改善させられるポテンシャルが大きいこともわかりました。調査対象の上位2割の企業では意思決定有効性スコアの平均が71%であったのに対し、それ以外(下位8割)の企業では平均が30%だったのです。このことは、平均的な企業が意思決定の有効性を現在の2倍以上に高められる可能性をもつことを示唆しています。また、調査対象企業の意思決定有効性スコアの国別平均を比較すると、残念なことに日本企業は総合スコアでも、4つの因子の個別スコアでも、他国企業に比べて水をあけられています。意思決定力を改善することが、皆さんの日々のフラストレーションの解消だけでなく、業績の向上につながる可能性を秘めているのです。

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では、どうすれば企業の意思決定力を高めることができるのでしょうか。一つのアプローチは、「複雑性の解消」による意思決定の数の絞り込みです。ここで言う複雑性とは、事業の数、製品・サービスや対象市場の数、組織の構造、事業運営のプロセス、評価の仕組みなどを指します。これらは企業活動の拡大につれて(あるいは拡大せずとも、放っておくと自然に)多層化、肥大化していきます。そうすると企業あるいは経営者としては、極めて幅広い経営課題について意思決定を求められ、かつそれに必要な情報があがってくるまでに膨大な時間と労力を組織に費やすことになります。意思決定力を向上させるにはこうした複雑性を解消し、また中間管理職の意思決定権限を明確にして、経営者の時間と労力を重要な論点に絞り込む必要があります。

もう一つは、意思決定すべき対象である起案の質の向上です。前述のとおり、意思決定力は4つの要素に因数分解できますが、意思決定の関係者は①起案者②情報提供者③(法律などの専門的見地からの)承認者④決定者⑤実行者の5つに分類できます。

意思決定力というと決定者の能力が最も重要であるように捉えがちです。ところがベインの研究と経験によると、意思決定の有効性を最も左右するのは起案者と起案の質です。まずは優れた起案、すなわち意思決定すべき論点を明確にすること。次になぜそれが重要な論点かをファクトで示し、複数のオプションを提示、各オプションの長所・短所をファクトと分析で掘り下げ、提案とその根拠を明示するのです。そうした起案は、意思決定者や助言者が優先的かつ効果的に議論できるため意思決定の質とスピードが高くなります。実行者も納得感をもって実行にあたれるため歩留まりも高くなります。実際にベインの調査によると、日本企業でも他国の大手企業でも、意思決定の質、スピード、歩留まりの各パラメータは正相関していることが判明しています。一方、起案の力が弱ければ、それを支える助言やデータ、優れた意思決定者も、宝の持ち腐れです。ビッグデータ活用への関心が高まり、データ分析を重視する企業が増えていますが、そうしたデータや分析結果も何らかのビジネス上の提案・起案に繋がらなければ、何も生み出しません。

優れた起案は「通りやすそうな起案」とも必ずしも同じではないことにも留意が必要です。特定の意思決定者の主張・嗜好に配慮するあまり、ファクトや分析から論理的に導かれる「本当に正しい答え」とかい離した提案をしても、反論が出た場合に主張がぶれやすく、議論も二転三転してしまいます。意思決定に時間がかかり、仮に決まったとしても合理性を欠いているので実行者が納得せず、実行歩留りも低くなりがちです。ただ上位者に指示された課題について、上位者の仮説をおもんぱかって起案をするのではなく、本当に重要な論点は何か、それに対して本当に企業価値の向上、顧客へのより良い価値の提供につながる答えは何かを合理的に検討して、それを情熱をもって伝える。そんな起案者の努力が、日本企業の競争力を大きく向上させるのではないでしょうか。

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