論説、レポート

The Working Future: 人に寄りそうこれからの働き方
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1964年、ランド研究所は、2020年までに人類は知能を持った猿を飼い、肉体労働をさせることになるだろうと予想した。1959年、米国郵政長官は、未来の郵便物はロケットで送られるようになるだろうと予測した(実際にはEメールの方が費用対効果が高いことが判明したのだが)。1930年、ジョン・メイナード・ケインズは、今後100年にわたり経済成長が続けば、1週間の労働時間は15時間にまで短縮されるだろうと予言した。1935年にはニコラ・テスラが、今後100年の間に人間の労働力はほとんどロボットに取って代わられると予言し、ケインズの意見に同調した。

同じような予測は数多くなされたが、こうした仕事の未来に関わる予測が必ずしもその通り現実になったわけではない。私たちの働き方が劇的に変化するなどという予測が大げさだとしても、多くの人が現実に何かが変わりつつあることを実感している。

パンデミックが働き方に不可逆的な変化を引き起こしたことは疑いようのないものである。多くの人がリモートワークという新しい働き方の実験に参加することを余儀なくされ、働き方に対する人々の認識を変えた。一方で、社会を維持するために日々ウイルスと向き合わなければならない仕事に就いている人もいた。私たちは皆、自分の仕事がどのようなものであってほしいか、そして自分の人生において仕事がどのような意味を持つものであるべきかを考えざるを得ない状況に置かれていた。ベイン・アンド・カンパニーがDynata社と実施した調査に基づくと、主要10カ国の58%の労働者が、パンデミックによって仕事と私生活のバランスを見直す必要に迫られたと感じている。

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パンデミックによって、仕事と生活のバランスを見直す必要に迫られていると感じている労働者の割合

しかし、深刻な変化はパンデミック以前から表面化し始めていた。機械学習や関連技術が成熟するに従って、自動化の影響に対する懸念が急増していたのである。ギグワーク(単発の仕事を受ける働き方)が新しいデジタル・プラットフォームに支えられて成長する中で、伝統的な雇用モデルが持続可能なものか、疑問が呈されるようになった。柔軟な勤務形態が今や主流になった。また企業に社会的パーパスを明確に定義することが求められるようになると、ビジネス・リーダー達は内省の旅に出ることを余儀なくされた。

労働者と企業の関係は根本的に変化しつつあり、リーダーは人材へのアプローチを見直す必要に迫られている。そして、現代ほどその必要性が叫ばれている時代はいまだかつてなかった。才能ある人材は、企業にとって最も貴重な資源となりつつある。我々はこれまでの調査を通じて、企業が生き残るためには規模だけでなくスピードと顧客との親密な関係構築が求められるようになる新しい時代が訪れつつあることを予見してきた。我々はこのバランスを実現する人たちを「企業内新興勢力」と呼んでいる。こうした新しい時代においては、ビジネス・リーダーにとって資本こそが確保し、管理し、報酬を得るべき最も重要な資源であるとされた従来の株主優位の時代は既に過去のものとなっている。今や労働力人口の増加が減速する一方で資本は過剰となり、さらに知的財産や顧客ネットワークなどの無形資産が重要性を増す中で、パワーバランスは資本から労働力へと移行しつつある。

労働者と企業の関係に関する広く知られた考え方のほとんどは、現在我々が暮らす世界とは全く異なる古い世界観で築かれたものだ。そこでは労働者を単に企業という機械の生産要素としてしか見ていない。だが今日の企業は、仕事についての考え方に人間らしさを与えるような、新しいメンタルモデルを必要としている。労働者は単なる労働提供者ではなく、現代企業にとって不可欠な構成要素である。しかし、私たちは労働者の希望や願望、未発掘の潜在能力、感情などについては、表面的な理解にとどまっていることがしばしばである。

パンデミックはまた、将来の企業幹部候補の育成だけが人材獲得競争の目的ではないという一つの現実を浮き彫りにした。2020年2月から2021年2月の間に、アメリカの労働者の4分の1以上の人々(そのほとんどが第一線で働いていた)の働く会社を変えた。これほどの転職率は過去に例がないほどのものであった。こうした転職の多くは自発的なものではなかったが、離職率がこれほどまでに急上昇したことが示唆するのは、多くの労働者にとってパンデミックによる仕事の変化は、自分が仕事に何を求めているかを考え直すきっかけとなったということだ。その結果、多くの企業が第一線の重要な職種の人手不足を埋めるのに苦労しており、危機の終息後にフル稼働に戻ることができるのか懸念されている。

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雇用主が変わった米国人労働者の割合

技術的・社会的な変化の渦に飲み込まれないためには、自社の労働力に関する考え方を変える必要があることを、ビジネス・リーダーは認識している。一方で、どのような行動を取ることで本当の意味での変化が得られるのか、判断に苦慮している。

本レポートは、1年にわたる徹底的なリサーチにより、働き方の未来に関する広範な示唆と、変化しつつある人材獲得競争に打ち勝つために企業が今取るべきステップを明らかにするものである。本レポートは2万人の労働者を対象としたベイン/Dynata社の調査と、さまざまな立場にある100人以上の人々への詳細なインタビューに基づいている。調査対象国は世界のGDPの約65%を占める米国、ドイツ、フランス、イタリア、日本、中国、インド、ブラジル、インドネシア、ナイジェリアの10カ国であり、世界中の異なる文化から広い視野を提供する。また、本調査は、パンデミック発生以来、CEOフォーラムを通じて経営陣と交わした何百もの対話にも基づいている。加えて経済学、社会学、人類学、心理学、歴史学など、さまざまな分野の専門家や文献からのインプットも取り入れている。

競争が激化する市場で優位に立とうとするビジネス・リーダーにとって、これらはどのような意味を持つのだろうか。第一に、勝ち組企業は、人材を奪う企業から、人材を生み出す企業へと軸足を移すだろう。そのためには、学習への投資を拡大し、既成概念に囚われず幅広い視点からキャリア形成についての思考を深め、組織内にグロースマインド(成長マインド)を醸成する必要がある。第二に、リーダーは、労働者を機械のように管理することをやめ、彼/彼女らが個人の能力を高め、各々の有意義な人生についての考え方に合ったキャリアを築けるよう支援することが必要である。その一環として、リーダーがワークフローを再編成し、個人が持つ人間らしい長所を最大限に活用できるようにしなければならない。最後に、勝ち組企業は、ビジョンと価値観の共有によって団結しながら、多くの労働者個々人に帰属意識と機会を提供する組織を構築するだろう。

*本レポートの続きはフルレポート(日本語、PDF)をダウンロードください

コンテンツ

P2: はじめに
P5: 働く動機の変化
P11:「良い仕事」に対する考え方の多様化
P19: 自動化を通じた仕事の「人間らしさ」の回復
P26: 技術革新によって曖昧になる企業の輪郭
P33: 若い労働者への負担の増大
P38: 人間らしい労働へ

著者
  • Partner, New York
  • Partner, Hong Kong
  • Advisory Partner, ロンドンオフィス
  • Partner, Paris
  • Former Advisory Partner, Boston
  • Former Director, Bain Futures, ロンドンオフィス
  • Managing Director, Macro Trends Group, New York
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