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      日経産業新聞 ベイン寄稿記事 【連載】経営コンサルの現場から ~M&Aから見る日本企業の課題~ (全11回)

      日経産業新聞 ベイン寄稿記事 【連載】経営コンサルの現場から ~M&Aから見る日本企業の課題~ (全11回)

      Bain report

      著者:火浦 俊彦

      • min read

      記事

      日経産業新聞 ベイン寄稿記事 【連載】経営コンサルの現場から ~M&Aから見る日本企業の課題~ (全11回)
      ja

      本書は、2014年4月1日から4月16日の日経産業新聞に掲載された寄稿記事の中身をまとめたものです。

      (1) 戦略が問題なのではない
      (2) 求められるオーナー感覚
      (3) 投資ファンドが持つ緊張感
      (4) 最大の鍵は利害一致
      (5) 精密にリスクをとる
      (6) 投資意思決定、議論の深さ
      (7) 企業戦略との整合性
      (8) コア事業、圧倒的に強く
      (9) 買収会社の価値を上げる
      (10)良い案件を辛抱強く開拓
      (11)「創業者目線」取り戻せ  


       

      (1)戦略が問題なのではない

      「岩盤のように固い本質的な課題にぶち当たったな」。私が最近、コンサルティングの仕事をクライアントと進めながらつぶやく言葉です。25年以上、経営コンサルタントとして様々な国籍・企業の人と戦略を作る仕事をしてきました。戦略コンサルタントと名乗りながら、矛盾したことを言うと叱られそうですが、「戦略が問題なのではない」というのが私の本音です。

      正しいデータと、フレームワークやツールを使いクライアントとしっかり議論すれば正しい戦略を描くのはそれほど難しい事ではありません。しかし実行に移す際に必要とされる能力(=ケイパビリティー)が欠けているケースが多々あるのです。ハウツーに近いスキルレベルの話なら学習すればよいのですが、多くの場合、長年培ってきた社員の考え方や行動パターン、トップも含む意思決定のあり方などが、新たなケイパビリティー構築の障害になることが多いのです。

      今回とり上げるM&Aもその一つです。私は近年多くの企業でM&Aの仕事を手掛けてきました。その共通の課題は実行のスキル不足だけでなく、組織としてのマインドや行動様式を大きく変える必要がある事です。例えば買収であれば株主として買収企業の経営者に向き合う事になります。親会社自体が日本独自の株の持ち合い関係に慣れていると、どう買収企業に向き合いその成長に貢献するかについての肌感覚がないため、株主としての行動自体を学ばなくてはいけません。今回の連載ではM&Aを題材に新しいケイパビリティー構築を進めるうえでの日本企業の組織や体質の課題を考えたいと思います。その突破がないと日本企業の更なる発展には限界があります。「戦略からケイパビリティー」をキーワードに、お話させていただきます。

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      (2)求められるオーナー感覚

      言うまでもなくM&Aは対象企業の株を取得する投資行為です。しかし、投資行為という意味が組織で真に理解されているかどうか、疑問に思う事が時にあります。投資ですから、買収先企業の業績が悪化すれば株式価値が毀損し、全損ということもありえます。従って、M&A取引を成功させるためには相当の覚悟と緊迫感を持って臨むことが必要になります。

      これは、社員が取引先と日常行っている商取引とはだいぶ性格が異なります。大企業になればなるほど、取引先との関係は長く、安定的であることでしょう。そうした関係に慣れ親しんだ感覚をそのままM&Aの仕事取引に持ち込むわけにはいきません。また、株式を取得するということはその企業のオーナーになるという事です。なぜその企業を買収したのか、買収したあとにその企業をどのように導いていくのか、明確な意思を持つことが求められます。なかなか大企業の人事ローテーションの中で身につけることは難しいかもしれません。大きな組織の中の一部として効果的に機能できても、組織全体をどうもっていこうかと考え、そして、自らの意思として主張する機会はなかなか得られなくなってきているのではないでしょうか。

      さらにオーナーになるという事は、オーナーとしてその会社の経営者に向き合う必要があるのです。経営者からみて、尊敬に値するオーナーとしての見識が求められます。さらにその見識に基づいて、経営者を支援し、場合によっては、経営者がやろうとしていることに、反対しなくてはなりません。そうした会話は会議の中で交わされるのではなく、オーナーと経営者の一対一の勝負の場となります。果たして大企業組織の中でこのようなオーナー感覚がある人材がどれくらいいるでしょうか? あるいはこうした感覚を植えつけるような教育が行われているでしょうか? 実際に経営レベルの視点で一対一の場で勝負の経験をした社員はどれほどいるでしょうか? こうやってみてくると、M&A取引自体がいかに通常の日常取引とは違う感覚を要求されるかということが分かります。

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      (3)投資ファンドが持つ緊張感

      プライベートエクイティあるいは投資ファンドという言葉を耳にされた方は多いと思いますが、実際どのように運営されているか知らない方も多いと思いますので、少し解説をしていきます。そこには投資を成功させるための色々な知恵が埋め込まれています。

      まず、ファンドを運営する主体はGeneraLPartner(GP)と呼ばれ、投資先の選定から実際の投資、投資先の価値向上、売却までを一貫して行うチームです。ファンドによって呼び名は違いますが、Managing Director(MD)という案件ごとの投資責任者がおり、これを支えるスタッフによって構成されています。ファンドによっては投資完了後に投資先の価値向上に専念する部隊(ポートフォリオチーム)を持っています。これは株主となった投資先の経営陣と向きあい、共に投資先企業の価値向上に協業する部隊です。

      このGPに対してLimited Partner(LP)という投資家がファンドに出資をし、GPに資産の運用を任せます。GPの日常活動をまかなうために、LPはマネジメントフィーという形で預けた金額に対しての一定率のフィーを払います。GPはLPから預かった資産を投資し、これを売却して得た利益のうち、まずはこのフィーを返し、更にLPとの間で事前に合意した投資利回り(ハードルレート)を超えて売却益が出た場合に、その超過分の一定の割合を成功報酬として獲得します。完全な成功報酬ベースの仕事をしているわけです。GPはハードルレートを超えるまでは報酬はもらえませんし、更に、投資家が期待する最終利回りを上回ってこないと、ファンドが新たに資金調達しようとしても投資家は応じません。資金調達ができなければ通常の活動経費も得られないわけですから、その段階でファンドとしては成立しなくなってしまいます。

      厳しい条件の下、GPは投資に向き合わざるを得ず、MDには大きなプレッシャーがかかります。ただ、この緊張感や緊迫感が成功する上で実は重要な要素になっています。買収に臨む日本企業がどこまでこの緊張感を経営も含めて持ち続けているでしょうか?

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      (4)最大の鍵は利害一致

      投資家が期待利回りを得る為に厳しい仕組みをGPに求めるばかりでなく、個人レベルの行動にまで徹底する仕掛けがあります。例えばキーマンクローズです。LPが投資の条件としてGPの代表者、あるいは鍵となるMDが投資回収まで責任を持って業務に当たりGPに所属し続けることを求めています。ファンドによってはGP自体がGPの資金をファンドに投資したりMD(場合によっては他の社員も含めて)が自己資金をファンド自体に投資したりすることを求めます。

      そこまで求める最大の目的は、投資家とファンド、更にはそこで働く個人の利害を一致させること(Alignment of interest)です。投資成功の最大の鍵は利害一致です。高い投資利回りを得るという目的達成には、ファンドやその担当者が完全に合致した行動を取ることが不可欠だからです。投資家とファンドの間だけでは不十分で、ファンドと投資先企業、その経営者の利害が一致していないと意味がありません。

      従ってファンドは投資先経営者との約束事の中に、企業価値向上の度合いに応じて経営者や従業員にインセンティブを与えることを盛り込みます。金銭的な面で利害を一致させるだけではありません。企業価値向上のためにどのような戦略を取るのかについてファンドと経営者の考えを一致させるようなプロセスを持っているケースがほとんどです。これらの仕組みを通じて、投資家(LP)と運用者(GP)、そして投資先企業経営者の利害が一致し、全員が投資のリターンを最大化するという目標に向かうわけです。

      ここで言う投資家とは、ファンドの場合、年金、基金、財団と様々ですが、優れた投資家は様々なGPとの経験の中から優れた資産運用アプローチを熟知しており、GPに対してアドバイスをすることも数多くあります。このように、資産運用者であるGPには暖かくも大変厳しい結果主義が突きつけられています。日本企業は、社内のみならず、買収先企業経営陣も含めて、買収企業の成功に向けてどれだけAlignment of interestが図られているでしょうか?

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      (5)精密にリスクをとる

      次に投資ファンドがどのように投資の意思決定をしていくのか見てみましょう。

      まず、ダウンサイドのリスクを大変厳しくみます。買収候補先の経営陣が立てている事業計画が出発点となりますが、投資に当たっては経営陣からその事業計画の根拠や前提を当然ヒアリングします。その根拠の中で脆弱なものをあぶり出すだけではありません。往々にして経営陣の計画には読みが甘い点が多くあります。例えば、競合の攻勢について楽観しすぎたり、自社製品に対する顧客からの支持を希望的に見積もったりします。案件ごとの責任者であるMDを中心とする投資チームは、自らの足やコンサルタントを使って現場へ出掛け、競合の動きを観察し、顧客に実際に話を聞き、競合製品と投資対象企業の製品との比較を行い、厳しい現実を受け止めます。現実を定量化し、どこまでの損を覚悟すべきか腹を決めます。

      次にアップサイドをみていきます。重要なのは投資対象企業の価値向上の最も大きなドライバーが何かを定量化することです。例えば特定セグメントでのシェア向上の場合、そのセグメントをカバーする営業マンの数を増加することか、売り上げではなく製品原価を競合並みに下げることか、どこに最も価値向上の可能性があるかを見極めます。こうした価値向上策を「投資テーマ」とファンド業界では言いますが、要は投資ごとにテーマは何か、言葉を換えれば自分たちは何に賭けるのかということを明確に認識するわけです。

      最悪の事態が起こった時はどこまで覚悟しないといけないか、アップサイドを狙うなら何に賭けないといけないのかという腹決めをしっかりします。投資ですから、リスクを取ってリターンを狙います。ただリスクを取るにしてもより精密にリスクをとるわけです。企業の中では精密にリスクを取らないような行動が奨励されてはいないでしょうか? 日本の教育にも問題があるのではと思うこともあります。家庭でも学校でもいかにリスクを避けるかを教えますが、いかにうまくリスクをとるかを教えることはあまりありません。

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      (6)投資意思決定、議論の深さ

      ファンドの投資意思決定に関して特筆すべきは、投資決定に至るまでの議論の深さです。先述のとおり、投資案件当事者であるMDだけではなく、チームメンバーも自己資金をファンドに入れているのですから、チーム全員が正しい判断をするために徹底的に議論しようとするインセンティブが働きます。ですから、ファンドにおいて投資を決定する投資委員会における議論は、参加者全員が自らの経験をベースに投資案件について様々な観点から意見を戦わせます。案件当事者だけで間違った判断をされると自らの投資資金も毀損する可能性があるため、当事者でなくても、正しい意思決定に貢献しようとするわけです。

      私もいくつかの投資ファンドの投資委員会に出席したことがありますが、議論は真剣そのものです。投資ファンドの社長、当事者であるMD、当事者ではない他のMD、その下のチームメンバーがまさに知的格闘技を繰り広げます。アメフトのようなコンタクトスポーツを見ているようでした。激しい議論は、結論が出るまで何回でも繰り返されます。あるファンドでは一つの案件の投資をするのに、社長も出席する1回2時間程度の投資委員会を5~6回実施しています。翻って日本企業での投資意思決定は大分様相が違うのではないでしょうか? 当事者でない案件に口を挟むと、自分の案件にも突っ込まれるので口を出さない、当事者でないから詳細はわからないと遠慮して発言を控える、ということは起こっていないでしょうか? さらに、上席者、特に経営幹部の時間を多く使い、自分たちが何に賭けようとしているのか、投資テーマは何かを全員で徹底議論するのは至難の業でしょう。

      議論するにしても、企業価値向上のポイントは何かというのは高度な経営的な視点が求められますし、議論に活用できる情報を現場で収集・分析するような調査スキルが組織に欠如していることもあります。投資に向かう姿勢並びに投資判断に必要な経営的な目線、それを支える調査分析能力の向上が日本企業には求められています。

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      (7)企業戦略との整合性

      これまで、投資ファンドの投資案件に取り組むマインドや行動様式と比較しながら、多くの日本企業が抱えるM&A取り組み上の課題を見てきました。M&Aを成功させるためには、株主としての目線、オーナーとしての知見、投資の成功と個人や組織の評価・報酬を結びつけるような仕組み、組織全体の知見を総動員して知的格闘技を繰り広げながら意思決定に結びつける緊張感など、日本企業がこれまで作り上げて来た大企業を運営し管理するための組織や制度にも大きく揺らぎを与えるような取り組みが必要となります。

      その解は個別企業がどのような背景で現在の組織運営に至ったかによって異なるため、極めて個別解ですが、M&Aだけでなく日本企業がどのようにして「大企業病・官僚的マインド」に陥り、どうやって抜け出すかについては別の機会に述べたいと思います。

      一つ言えることは、日本企業のM&A取り組み上の課題も第2段階に入っているという事です。第1段階の課題はより初歩的で、買収企業の価格算定の仕方や、ディールのストラクチャリングの仕方など、テクニカルなことを学ぶ段階だったと思います。M&A遂行能力も明らかに進化し、より本質的な対応が必要な第2段階に入ったと言ってよいでしょう。

      第2段階の課題としてもう一つ取り上げておきたいのは、M&Aは企業戦略実行の手段であるという点です。最近、「1千億円を買収に充てる」といった報道を目にしますが、時にM&Aが目的化していないかと思う事があります。M&Aが目的化すると、公表した目標数字を達成するために世に出回る案件を探し始め、案件の質、企業戦略との整合性に対する考察がおざなりになります。これはあるべき姿とは正反対で、本来は企業戦略を実現するための手段としてM&Aがあるべきです。もしかすると、当然それは考えていると言う企業の方も多いかもしれません。しかし、我々から見ると、実は企業戦略の組み立て方自体に問題があり、結果として戦略達成のための手段であるM&A案件選択の妥当性がないケースが散見されます。

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      (8)コア事業、圧倒的に強く

      ここからは、M&A戦略の下敷きとなる企業戦略を組み立てる上で鍵となる2つのコンセプトをご紹介します。一つ目はリーダーシップエコノミクス。我々が様々な業界のプロジェクトを通じて発見した共通の法則で、自社の戦う市場で競争相手とシェアの差をつければつけるほど利益率が高くなるという事です。

      競争相手とのシェアの差は、「相対市場シェア」で測ります。これは、市場リーダーであれば2位との差、2位以下であれば1位との差を示す指標です。我々の経験では、2位に対して倍以上の差をつけているリーダーと2位と僅差のリーダーでは、資本収益率で2倍の差がでることがわかっています。この分析は圧倒的に強いコア事業を持つことが重要であるという事を意味しており、企業戦略の基本は、この圧倒的に強い市場地位をもつコア事業を作ることです。

      M&Aも、まずは自分達が戦う市場で圧倒的に強い市場地位を作るための案件が良い案件となります。さらにこうした案件は単発ではありません。多くの場合、対象市場において複数の買収を重ね、リーダーシップポジションを強化する必要があります。M&A巧者は、望ましい市場地位を獲得するまでを一つのストーリーとして、複数の買収可能先をリストアップし、時間をかけてアプローチしています。対象市場におけるリーダーシップエコノミクスを獲得するための複数案件の追求がM&A戦略の基本になるべきですが、自社のポジションを強化しコア事業化するどころか、製品や地域が異なる市場に分散してM&Aが行われ、分散して買った会社をマネジメントする複雑性に経営が翻弄されてしまうケースも少なくないのです。M&Aは時間を買うため、と言いますが、こうした状況になるとむしろ時間をロスしてしまっています。

      もう一つの重要なコンセプトは、自社のコアケイパビリティーです。これは他社とは差別化された商品やサービスを提供するための核となる能力のことです。コアケイパビリティーの有無がなぜM&Aの成功につながるかを、次回お話ししたいと思います。

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      (9)買収会社の価値を上げる

      企業のコアケイパビリティーとM&Aは、無関係のように聞こえるかもしれません。しかし、実はM&Aの成功とコアケイパビリティーは密接に関係しています。買収した会社の価値を上げるのは、親会社のコアケイパビリティーだからです。

      アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)という世界最大のビール会社があります。買収を繰り返してグローバルなビール業界のリーダーになりました。戦略の教科書的に解説すれば、ビール事業はローカルな事業であり、各国の市場での相対シェアが収益性を決めます。従って、狙った市場でのリーダーシップポジションをとるために、買収は極めて有効な手段となります。この原則に忠実に従っているのがABIです。ABIの優れたところは、単に買収してリーダーシップポジションをとるだけではなく、買収会社の価値をさらに上げるために、本社が持つビール工場の生産性管理ノウハウを買収した会社に移植する点です。

      同社は、低コストビール会社の地位を確立した後、VPO(出荷工場最適化)システムを独自の再現可能なコスト重視のプログラムとして体系化し、現在では同プログラムが戦略と差別化の中枢となっています。VPOは2004年に4つの工場で試験導入され、導入率は2012年には95%になっています。これがまさに親会社のコアケイパビリティーです。

      このケイパビリティーがあるからこそ、傘下企業に移植することを通じて、単独での経営より価値を上げられるわけです。逆に傘下企業から見れば、優れたケイパビリティーが移植されない限り、買収された意味がありません。にもかかわらず、親会社が付加できる価値が不明確なまま買収しているケースが多いのではないでしょうか? 自社の本当のコアケイパビリティーが明確に定義されていないケースも多いのではないのでしょうか? 案件が先行し、コアケイパビリティーの明確化や構築が後回しになると、買収先の業績の伸び悩みに手を取られて、時間を買うはずのM&Aで時間をロスするという皮肉な状況になります。

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      (10)良い案件を辛抱強く開拓

      M&Aを成功させるためには、良い案件を選ぶこと、あるいは良い案件を辛抱強く開拓することが重要です。良い案件とは単に自社により大きな収益をもたらす案件ではありません。自社の狙う市場でリーダーシップポジションを築くための案件であり、なおかつ自らのコアケイパビリティーを活用して買収先に価値を加えられるような案件です。そのためには自社のコアケイパビリティーの見極めや構築の努力が必要です。良くない案件はそのあといくら努力しても手ばかり取られて、思うような成果はあげられません。

      弊社の経験から、このコアケイパビリティーは細かくは15種類に分類できますが、大まかに言えば、高い顧客ロイヤルティーを創造するもの、新たなイノベーションを創出するもの、コスト競争力を高めるもの、質の高い意思決定を行うための組織プロセス、相乗効果をもたらす事業ポートフォリオの5つに分類されます。前回述べたアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)の事例は、コスト競争力を高めるためのケイパビリティーを現場に導入するプログラムです。

      日本企業の組織の中にもコアケイパビリティーの断片が数多く眠っています。日本の厳しい消費者や競争にさらされる、あるいは海外進出に伴う苦労の中で、現場では様々な知恵が生み出されていることも多いのです。しかし、これらの散在するケイパビリティーを編集、体系化し、自社の差別化を強化するような試みはあまり行われていません。海外の大手企業ではケイパビリティーを蓄積し、全世界に広める努力を推進している事例が多くみられます。ケイパビリティーのグローバル化が、グローバル競争に必要不可欠になりつつあるからです。

      ケイパビリティーが組織で共有されるためにはシンプルで繰り返すことが可能な「型」になっていないといけません。M&Aで言えば、デューデリジェンスや買収後の買収企業経営者とのやりとりなど、M&Aの主要な活動が人によって違うのではなく、組織として繰り返せる「型」になっていることが必要なのです。

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      (11)「創業者目線」取り戻せ

      組織の随所に様々な知見がありながら、これを誰でも繰り返し使える「型」としてのケイパビリティーにまで体系化させていない事例が、日本企業にはたくさんあるような気がします。背後には日本企業独特の組織運営の暗黙の前提があるのではないでしょうか。業務を「人」を通じて「管理」する発想とでも言えるようなものです。業務が人にひもづいて、人が変わると仕事のやりかたも変わることがよく起こっているようです。人の配置変更も、効率化あるいは管理のしやすさという観点から行われていないでしょうか。

      管理する人の経験や知識の幅が異なるので、管理する側の人の都合で仕事が変わってしまうのはよくある現象です。ここは少し発想を変える必要があるかもしれません。本来、企業としての戦略や価値向上、競争相手に「勝つ」ためには何が必要か、競争上重要な業務はどのような「型」にしていくか、という発想であるべきです。「型」がはっきりしないと「人」を通じて「管理」しようとします。「型」を通じて「競争に勝つ」のがあるべき姿でしょう。日本企業にはこの「管理」しようという力が強く働きすぎているようです。日本企業が成長し組織が大きくなるに伴い、管理をしようという力が強くなりすぎたのでしょう。

      そのため、企業としていかに顧客にとってかけがえのない存在となるか、あるいは他社と差別化し、競争に勝つという発想が弱くなってきてはいないでしょうか。この「管理」と対比する発想は、実は企業の創業者が創業の時に持っていた発想にほかなりません。

      私は「創業者目線」が失われて「管理者目線」が強くなりすぎたことが、再生を必要とする日本企業の最大の問題点だと考えています。官僚化し硬直化した組織に「創業者目線」をいかに復活させるかが、日本企業が再度輝く鍵です。「創業者目線」とは創業者自身が健在ということでは必ずしもなく、創業者が創業の頃とっていたであろうリーダーとしての行動様式が組織全体に保持されているという意味です。

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      著者
      • 火浦 俊彦
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      First published in 4月 2014
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