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      論説

      社員の会社に対するロイヤルティ向上は誰の仕事か?

      社員の会社に対するロイヤルティ向上は誰の仕事か?

      著者:Jon Kaufman, Rob Markey, Sarah Dey Burton and Domenico Azzarello

      • min read

      論説

      社員の会社に対するロイヤルティ向上は誰の仕事か?
      ja

      顧客のロイヤルティを獲得しようとした時に、自社の従業員から会社に対する熱意やロイヤルティを勝ち取ることも重要だということが、近年広く認識され始めている。なかでも、米国のIT企業ラックスペース社は、社是にも掲げている「熱狂的な顧客サポート」にこだわる一方で、従業員ロイヤルティを最優先取組事項の一つに挙げている。そのラックスペース社で、従業員に与えられる最も名誉ある賞が「ストレートジャケット(拘束衣)賞」である。無我夢中でサービスに熱中している従業員に授与される賞で、賞品としてラックスペース社のブランドロゴ入りのストレートジャケット(拘束衣)が贈られるというユーモアに満ちた賞となっている。

      「ストレートジャケット賞」のような象徴的な表彰の他にも、同社は現場の管理職とのチームミーティングや、顧客対応部門のメンバーを集めた定期的なミーティング等を通じ、従業員ロイヤルティの向上に大きな投資を行ってきた。2008年に同社がフォーチュン誌の「最も働きがいのある企業」の一つに選ばれたのはこのような努力の賜物であろう。この結果、同社は業界内で最も高い顧客ロイヤルティスコアを獲得し、2008年以降の売上は年平均25%、利益は48%も成長した。

      ラックスペース社の事例から、従業員ロイヤルティ向上の重要性とその価値が分かるだろう。「会社に対するロイヤルティが高い」従業員は、コストを下げ、生産性を高め、優れた顧客体験をもたらすべく自主的に努力するため、会社により良い財務的結果をもたらすのである。「会社に対するロイヤルティが高い」とは、「自分の職場に満足」するだけでなく、「会社のファンになる」意識を持った状態を指す。すなわち、雇用の確保や相応の評価、報酬に満足しているといった必要条件に加え、上司や同僚とのつながりや学びの機会、成長の時間、仕事に意義を感じるといった差別化要素が求められる。これを実現するために、同社のように従業員ロイヤルティが高い企業の多くは、現場の管理職が定期的にチームメンバーからフィードバックを集め、部下の懸念の根本要因を特定し、職場環境や業務プロセスを改善することで、従業員ロイヤルティの向上に恒常的に取り組んでいる。

      同社が従業員ロイヤルティを向上するにあたって導入しているのが、「ラッカーパルス」と呼ばれる四半期毎の従業員フィードバック調査である。これは顧客に実施しているNPS(ネット・プロモーター・スコア)調査と同じ手法を用い、「自社で働くことを親しい友人や知人に薦めますか」という質問と、その理由を聞く簡単な調査からなる。この調査で得られた匿名のフィードバックを通じて、現場の管理職は自分のチームのロイヤルティレベル、さらには実際に起こっている問題や懸念を把握できる。一方で、経営陣は経営会議の議題として従業員ロイヤルティの向上を定期的に取り上げ、組織横断的に話し合う場を設定している。こうした一連の取り組みの結果、社員持株制度の導入や、従業員の興味関心やキャリアパスに基づいた新しいトレーニングの実施などの多くの変革が実現してきた。その結果、ラックスペース社は誰もが働きたい職場へと変貌を遂げている。

      現場の管理職とチームメンバーが定期的に対話をすることは当然のように思われるかもしれないが、なかなか実行されていないのが現実である。また、ほとんどの経営陣は従業員ロイヤルティ向上の素晴らしさを説く一方で、人事部へその責任を丸投げして終わっているケースも多い。ところが、人事部は各従業員の意識や行動を改善するために必要な施策を直接実行する立場にはないため、人事部に任せては見当違いとなってしまう。

      多くの企業での人事部の取り組みは、「従業員意識調査」と称した何ページもの年次調査と、各現場の特性を考慮しない通り一遍の対策になりがちである。このような中央集権的アプローチでは、会社に対するロイヤルティレベルは上がるどころか逆効果になる恐れがある。現場の各チーム特有の問題や、その時々で変化する課題を解決するには、このアプローチは適していない。そのうえ、経営陣は現場事情を考慮しない時間軸で施策の実施を急かすことがあるが、人事部が調査の設計や管理、そして分析を主導してしまえば、現場の管理職が当事者意識を持つことはない。そうすると調査結果のスコアの話に終始し、低いスコアの原因については議論されないまま終わってしまう。そして、数ヶ月もすると取り組みも次第に忘れ去られ、平常状態に戻ってしまう。本質的な変化を欠いたままでは、「なぜわざわざこのようなアンケートに付き合わなければならないのか?」と「やらされ感」を持つ従業員を増やすだけになってしまう。

      本来的には、従業員ロイヤルティの向上は忠誠度の高い従業員を増やすこと自体が目的ではなく、最終的に顧客を獲得し、財務的結果を出すための手段であるはずだ。その観点で言えば、ベインが支援してきたクライアントの多くは、従業員ロイヤルティを向上させることで顧客との関係を強くし、財務的結果も享受している。例えば北欧のあるリテール銀行では、従業員ロイヤルティのスコア(従業員NPS)が上位25%の支店は、下位25%の支店と比べて顧客NPSのスコアが2.5倍ほど高いことが分かった。また、米国のある携帯電話会社では、売上トップの店舗の従業員ロイヤルティのスコアはそれ以外の店舗よりも30%ほど高かった。このように、業界や地域に関係なく、従業員ロイヤルティと顧客ロイヤルティは密接にリンクしていることが分かる。

      売上の向上だけでなく、従業員ロイヤルティの向上はコスト面でも大きな影響をもたらしている。会社に対するロイヤルティの高い従業員は、そうでない従業員と比べて離職率が低く、結果として採用や教育にかかるコストは低くなると言える。実際、先述した携帯電話会社では、従業員NPSが最も高い「プロモーター(推奨者)」従業員や中間の「パッシブ(中立者)」従業員に比べ、従業員NPSが低い従業員の離職率は2倍となっている。(『従業員NPS(eNPS)の概要』参照)

      このように、従業員ロイヤルティの高さは、より安定した職場環境の実現、生産性の向上、製品の品質向上といったビジネスの様々な側面においてメリットをもたらす。

      高い従業員ロイヤルティがもたらすメリットは広く理解されているが、その実現には多くの企業が苦戦を強いられている。ベイン・アンド・カンパニーが調査会社のネットサーベイ社と共同で、世界60カ国、40社の計20万人もの従業員を対象に調査を行った結果、以下のような傾向が分かった。

      •       一般社員ほど、従業員ロイヤルティスコアが低い:経営陣が現場の従業員の不満を軽視している恐れがある(図1)

      •       営業や顧客サービス部門の従業員ロイヤルティスコアが低い:現場で顧客接点を直接担っている層の会社に対するロイヤルティレベルが低い(図2)

       

      従業員ロイヤルティが高い企業は何が違うのか

      ラックスペース、AT&T、プログレッシブ、インテュイット、シンタス (Cintas)といった企業は、これらの傾向をよく理解した適切な取り組みを行っている。各社のアプローチはそれぞれ異なる特性を持つものの、以下の5つの共通点が見られた(図3)。

      1.        人事部ではなく、現場の管理職が主導する

      2.        現場の管理職はチームと率直な会話をするための正しい準備をする

      3.        顧客志向のチームを作る

      4.        従業員ロイヤルティ向上のための施策は、従業員のセグメントに応じてカスタマイズする

      5.        指標やスコアではなく、対話を重視する

      これらの5つの観点に着目して取り組むことで、会社に対するロイヤルティレベルを高め、ひいては財務的結果が得られる可能性は高まるだろう。

       

      1.  人事部ではなく、現場の管理職が主導する

      通常、上司との関係がうまくいかずに会社に対するロイヤルティだけが高いというのは考えにくい。ネットサーベイ社が行なった調査によると、会社に対するロイヤルティが高いプロモーター(推奨者)従業員の87%は直属の上司に対しても高い評価をつけていることが分かった。

      したがって経営陣にとっては、現場の管理職に対し、自分のチームメンバーの従業員ロイヤルティを優先課題として日々認識させることが重要になる。そのためには、まず経営陣が率先して自らロールモデルとなる必要がある。そこで求められる行動は、解決策を答えとして提示するのではなく、現場の管理職自身が正しいアクションを意思決定できるように導くことであり、従業員ロイヤルティスコアの低さを批判するのではなく、現場の管理職がその根本要因を理解し解決できるよう手助けをすることである。

      現場の管理職に自分のチームメンバーの従業員ロイヤルティを向上させる責任を明確に担わせることで、管理職自身の主体性が増し、会社に対するロイヤルティが高まる土台が醸成される。会社に対するロイヤルティが高い現場の管理職の方がチームに直接影響することは容易に想像がつく。

      現場の管理職が職場の課題解決のために積極的に動くことで初めて、チームメンバーはどのような社内ルールが障害になっているかをオープンに議論し、解決策を一緒に考えることができる。ただ、残業代や給付制度の見直しなど、課題によっては権限の範疇を越えることもあるかもしれない。そのような場合でも、権限を持つ経営陣に必要なフィードバックを行うことで、どういう状況になっているかをチームに伝えることが重要である。

      一見取るに足りないような問題に見えても、現場では大きな問題になっていることもある。北米の不動産管理会社、ファーストサービス・レジデンシャル社の例でいえば、カスタマーサービス部門の従業員は、日常業務で頻発する作業のためにコンピューター上の異なるウィンドウをその都度切り替えなければならず、辟易していた。彼らはモニターを追加設置することで、仕事の効率性と自分たちの会社に対するロイヤルティレベルを向上できると提案した。この考えを聞いたチームリーダーは、現場の意見をまとめて正式な稟議書として申請することで、経費の承認プロセスで却下されることもなく、無事にモニターの追加設置を実現した。

      他にも、現場のチームリーダーが自身の判断と権限によって、従業員ロイヤルティに関する問題を解決した例がある。ある24時間営業の小売チェーンでは、チームリーダーは、深夜シフトの販売員やサービス担当者が休憩時の食事について不満を持っていることを知った。なぜなら近隣のスーパーやレストランは全て営業を終了しており、自動販売機にあるのは甘菓子やスナックばかりで、夜食として満足のいくものとは言い難かったからである。チームメンバーとの対話からこの状況を知ったチームリーダーがすぐさま自動販売機の納入業者に掛け合い、新鮮な果物や健康的な食べ物を用意してもらったところ、深夜シフトの従業員の間で大ヒットとなった。

      チームとの定期的な議論から、顧客の利益に繋がるアイデアが生まれることもある。ある通信プロバイダー企業では、新しい評価指標の導入後、ケーブルテレビ設置部署のリーダーが現場の技術者から不満を聞きつけ調査を行ったところ、技術者の一日あたりの設置世帯数について非現実的な目標が設定されていることが分かった。設置世帯数の目標は変わらないままに、新しい評価指標では、技術者は作業後に顧客が本当に満足しているかどうかを確認しなければならなかった。そのためには、全てのケーブルボックスが正常に機能しているか、顧客がリモコンやネットワーク機能の操作方法を正しく理解しているかどうか再確認する必要があり、これまでと比べて1軒ごとに追加で30分~1時間かかっていた。技術者たちは、生産性目標を追うか顧客満足度を追うか、あるいは結果的にそのどちらも達成できずに終わるか、苦悩を抱えていた。この問題に対してチームリーダーは迅速に対応し、顧客と技術者の双方の利益を考え、生産性目標を現実的なものへと調整した。

       現場の管理職が主導するようになっても、決して人事部の役割は無くなるわけではなく、重点が移るだけである。調査や分析、施策の立案を行う代わりに、人事部は各階層のリーダーが従業員ロイヤルティ向上を妨げる要因を取り除くために必要な様々なサポートを行うことになる。

      2. 現場の管理職は、チームと率直な会話をするための正しい準備をする

      会社に対するロイヤルティを高めるために何が必要かをチームと議論することは、現場の管理職にとって必ずしも容易なことではなく、特に昇格したばかりの新任管理職にとっては難題である。多くの企業が、実績を上げた優秀な社員を管理職に昇進させているが、かつての同僚達のやる気をどのように引き出すかといった複雑なテーマに関し、十分なトレーニングやコーチングを行っている企業は多くない。

      一方で、従業員ロイヤルティの高い企業は、率直で建設的な議論を行うためのトレーニングや、「自分の仕事がアウトソースされてしまう懸念」や「賃上げ要求」等の扱いに困る状況の対処についてのトレーニングを重視している。このトレーニングでは、迅速にプロセスを改善しその結果をチームに報告するという「クローズド・ループ」のアプローチの重要性についても指導する。これは、ロイヤルティリーダー企業が顧客の課題にアプローチする際に用いる手法と同じである。

      誰かに対し、耳の痛いことを面と向かって言うのは難しい。それが上司であれば尚更である。そのため、初期段階のフィードバック(大抵の場合は短いオンライン調査になるが)をチームの誰が答えたか分からないように匿名で行うことは大変重要になる。トレーニングを受けた現場の管理職は得られた回答からチームの状況を把握し、どのような解決すべき問題が存在するかをチームとの対話を通じて確認することになる。

      現場の管理職が、チームの抱えている最も重要な問題を正確に把握している例はそう多くない。ベインがあるクライアントで行ったマネージャー達へのフォーカスグループインタビューで、我々は「チームメンバーが感じている最も大きな不満は何か」と尋ねた。どのマネージャーも、自分はチームのことをよく把握していると自信を持っていたにも関わらず、チームが感じる重要課題を特定できたマネージャーは全体の4分の1に過ぎなかった。マネージャーの大半が「給料に対する不満」を予想していたが、実際には、チームメンバーからは「トレーニングの数」や「評価の頻度」についての不満が多かった。それは、むしろマネージャー達が注力してきたと自負していたところだったのである。

      現場の管理職が自分達の権限だけでは解決できない問題については、経営レベルまで吸い上げるプロセスを組み込まない限り、全ての対話や調査は無駄に終わってしまう。自分達の意見が十分な権限を持つ幹部の所まで届くことを、従業員や管理職が確信できなければならない。

      不十分な対話では従業員ロイヤルティの改善に繋がらないため、どのように対話をリードすべきかを現場の管理職にトレーニングすることは極めて重要になる。そのために、人事部は、部署横断的な管理職向けトレーニングの設計や、状況確認するための質問票の作成などの重要な役割を担うことになる。最も効果的なトレーニングとしては、ロールプレイや、該当領域に詳しい現場の管理職による経験談の共有等が挙げられる。また、全社単位での実施に先立ち、異なる複数の部署でパイロット(試験導入)を実施することは効果的である。パイロットを通じて、経営陣の関心を引く課題や、現場の管理職が責任を担う上で準備不足を感じている箇所を明らかにすることができる。

      3.  顧客志向のチームを作る

      コールセンター担当者やセールススペシャリスト、技術者やその他現場の最前線で働く従業員は、ビジネスプロセス上のどこで顧客を煩わせがちか、どこで顧客を喜ばせることができるかについてよく理解している。経営陣は、現場の従業員の話に耳を傾けることによって、どのようにすれば自社が顧客の推奨者をより増やすことができるか、理解を深めることができる。ある銀行の場合、顧客体験を向上するために現場が提案した策は「厳しい違約金を削減する」「新商品の申し込みプロセスをより合理化する」「顧客管理インターフェースから最も頻繁に発生する手続きを特定し簡略化する」というものだった。

      実際に現場の従業員からアイデアを募集してみると、彼らの見解がいかに重要か分かるだろう。しかし、会社に対するロイヤルティをもう一段階向上させるためには、アイデアを検証しその結果を提案者に戻すという一連のループを完結させる「クローズド・ループ」のプロセスが必要になってくる。ある大手保険会社では、従業員の提案によってプロセスが大幅に変更された。保険金支払において、もしその顧客が過去3年間請求を申し立てたことがなく、かつ請求額が一定金額以下であれば、多くの煩雑な証明作業をせずともマネージャーの許可さえあれば支払いが行われるように変更したところ、手続きにかかるコストは大幅に削減された。このように自分達の提案が実現される様子を見ることで、従業員は経営陣が本当に自分達の意見に耳を傾け、尊重していると実感することになる。

      AT&Tは、顧客体験の継続的な改善のためには高い従業員ロイヤルティが必要不可欠だと考えている。そのため、全ての部署から寄せられるアイデアの検討や検証のため、オンライン上で提案を行う専用のITシステムを構築している。少人数の専門チームが即座に提案に目を通し優先順位付けを行った上で、各アイデアの実現に向けて適切な責任者を割り振る。オンラインを活用することで全ての従業員が各施策の進捗状況を把握できるため、状況に応じて興味を持った従業員がプロジェクトに途中参加することもある。このような制度に対し、本業の邪魔になるだけだという見方もあるかもしれないが、AT&Tはこの手法こそが顧客サービスを向上させ、現場にいる従業員の会社に対するロイヤルティを引き出す上で効率的だと考えている。

      4. 従業員ロイヤルティ向上のための施策は、従業員のセグメントに応じてカスタマイズする

      企業が顧客を属性情報や行動パターンの違いによってセグメント分けし、セグメントに応じて異なる価値を提供するように、従業員の間でも異なるニーズが存在し、また意欲を引き出す上で必要になる手法も異なる。年齢、性別、部署、価値観、それら全ての要素が従業員の特性を形成する。

      世代の違いについて見てみよう。ネットサーベイ社の調査によると、80~90年代生まれのミレニアム世代の従業員はその親の世代と比べて平均的に従業員ロイヤルティスコアが低くなる傾向にある。ミレニアム世代には、プロフェッショナル能力を開発する機会を提供することが、従業員ロイヤルティを改善する上で最も重要な要素の一つになる。一方で、ベビーブーマー世代は異なったニーズを持っており、アイデアや意見が自由に表現できる環境、実際に変化が実現される体制によって、会社に対するロイヤルティが向上する傾向が見られた。

      従業員ロイヤルティを左右する要素は、文化によっても大きく異なる。例えば、ギリシャ正教や欧州プロテスタントといった文化圏では「経営陣への信頼度」が従業員NPSと強い相関を見せた一方で、ラテンアメリカ圏やイスラム圏では「自社製品への誇り」がスコアとの強い相関を見せた。このように、文化によって特性は分けられる。

      男女間の会社に対するロイヤルティレベルのギャップを埋めようと試行錯誤している企業は、スポンサーシッププログラムやフレックス制度のような画一的なプログラムの導入を検討する前に、職場によって異なる課題が根底にあることをまずよく理解する必要がある。最近ベインが行なった英国の調査によると、プログラムの有効性は、経営陣がそのプログラムをどう位置づけているか、どう認識しているかによって大きく異なることが分かった。またこの調査では、配偶者が仕事で多忙な場合、男性の従業員NPSが女性に比べ大幅に低いことも明らかになった。

      多国籍企業にとっては、従業員セグメントによって異なる優先順位や価値観を理解するのは第一ステップに過ぎない。多くの企業はこの基本を理解しているものの、セグメントに応じた異なる施策を検討する段階には至っていない。依然として単一の文化や価値観に合わせたモチベーション向上のための画一的な手法に留まってしまっている。

      会社に対するロイヤルティ向上の責任を現場の管理職に担わせるのと同様に、従業員セグメントの優先順位付けについて指導することが効果的だということも分かってきた。マネージャーの中には、従業員セグメントによる違いを直感的に理解している者もいるが、基本的なトレーニングを行うことで、属性や性別、文化によって、どのような要素が会社に対するロイヤルティを左右するかについて、学びを得る者も多いだろう。このような場合でも、現場の管理職や経営陣向けにチームメンバーの特性に応じた施策立案に関するトレーニングを実施したり、従業員をセグメント分けしたりする重要な役割を人事部が担うことになる。

      5.  指標やスコアではなく、対話を重視する

      データを重視してきたマネージャーにとっては、従業員ロイヤルティに関する各指標をベンチマークしてランク付けし、指標の変動に応じたアメとムチの対応をするアプローチが魅力的に映るかもしれない。ただ、数値管理は短期的には機能するものの、持続的な改善のためには適切とは言えない。実際、マネージャーが数字しか見ないと、次第にメンバーの士気は下がり、メンバーも小手先で数値を上げるようになってしまう。

      ここで最も重要なのは、指標でなく対話を重視していることを強調することだ。そうすることで、経営陣が従業員ロイヤルティ向上による効果を信じていると現場の管理職たちに実感させることができる。AT&Tの場合、現場の管理職は従業員ロイヤルティスコアそのものではなく、スコアの変動だけを開示し、フィードバックをそのまま逐語的に伝えるようにトレーニングされている。この行動によって、ただ単にスコアを気にしているのではなく、根本要因にアプローチし、真摯に改善を実現する姿勢をアピールすることができる。このように、スコアを従来ほど重要視しないことは、現場管理職の権限と、彼らに寄せる信頼を示す意味でも重要になる。また最高経営幹部であれば、直属のチームとチームが抱える課題について議論する行為自体が範となるだろう。

      懐疑的な意見の払拭

      人事部が主導する全社調査を中心とした従業員ロイヤルティ向上のアプローチから、現場の管理職主導の対話を中心にしたアプローチに変更するとなると、当然ながら反対意見も出てくるだろう。新しい取り組みを根付かせるには、全社の様々な部署から理解を得る必要がある。

      多くの従業員が、無駄になったり頓挫したり、ひどいときには時間がかかるばかりで何も変化を生まなかった取り組みを過去に経験したことがあるかもしれない。新しい取り組みを嘲笑う従業員もいるかもしれない。各層のリーダーたちには、従業員のフィードバックに即座に対応しその結果を伝えることで、このような批判的な空気を一掃することが求められる。早い段階で、小規模でも何かしらの結果を出すことで、この取り組みの価値や経営幹部の本気度を示すことができる。

      それでも、多忙な現場の管理職たちは自分たちにとっての何のメリットもないと反対するかもしれない。調査や対話の中で批判的なフィードバックを受ける者もいるだろうし、どうせ経営陣はフィードバックに対応出来ないのではないかと疑う者もいるだろう。そのため、経営陣は、従業員ロイヤルティの向上には現場の管理職の強いコミットメントが必要なことを訴え、チームの従業員ロイヤルティ向上で現場の管理職自身にどのようなメリットがもたらされるかを示さなければならない。具体的には、チームの従業員ロイヤルティの向上によって顧客体験が向上し、目標数値の達成が容易になり、さらに彼ら自身のリーダーシップスキルの向上に繋がることを示す必要がある。トレーニングでは、匿名調査による批判的な意見の受け止め方や、そのような意見を改善余地として前向きに捉え、より強いリーダーになっていくマインドセットについても指導する必要がある。

      最高財務責任者(CFO)の観点からすると、人的資源の追加投資という決断を下すのはためらわれるかもしれない。彼らを説得するためには、従業員ロイヤルティの向上がよりよい財務的結果をもたらすことを示す必要がある。その際には、なぜ従業員ロイヤルティの高さと売上が相関するのか、それが投資に見合うものか、そして最終的に推奨者の顧客を増やすことがどのような価値をもたらすのかといった観点から証明することが重要になる。

      人事部は、これまで自分たちの管轄領域であったテーマについて、コントロールがきかなくなることを懸念するかもしれない。その場合、彼らの新しい役割を明確に示すことでその懸念を取り払うことができる。

      役割の変更によって各従業員の不平不満に対応する時間が削られ、調査結果の分析や取りまとめといった煩雑な作業が減り、リーダーの教育や従業員ロイヤルティ向上のためのトレーニングの設計といったより重要な仕事に時間を割

      経営陣への質問

      持続可能な従業員ロイヤルティ向上プログラムの導入を前向きに検討している企業の経営陣は、まずは以下の質問に答えてみて欲しい。

      •       自社の現場の管理職は人事部が動くのを待つのではなく、自らチームの従業員ロイヤルティ向上に責任を持って取り組んでいるか

      •       現場の管理職が継続的にチームの従業員ロイヤルティ向上に取り組むべきであると全社的に打ち出しているか?チーム内の対話をサポートする制度は整っているか

      •       自社の従業員は、自分たちのアイデアや提案に対して、経営陣が真摯に耳を傾け、検討していると感じているか?自社の従業員は全社調査を形骸化した制度と捉えていないか

      •       現場の従業員の従業員ロイヤルティ向上は、全社が取り組むべき課題として優先順位が高く設定されているか

      •       現場の管理職は各チーム特有の従業員ロイヤルティを左右する要因について理解しているか

      •       従業員からのフィードバックを議論する場において、ただスコアの変動を追うのではなく、根本要因の解明と解決策の立案に十分な時間を割いているか

      •        もしこれらの質問に対する答えの多くが「いいえ」であった場合、会社に対するロイヤルティを向上させることで大きな成果を得る機会が存在していると言える。まずは本来経営陣や管理職の責任である

      領域のどの部分が人事部に移ってしまっているか、あるいは人事部が果たすべき役割のうち経営陣や管理職が介入してしまっている領域がどこかを把握する必要がある。これが従業員ロイヤルティを強化し、顧客ロイヤルティを向上させ、財務的結果を生み出す上で必要な最初のステップとなるだろう。

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      First published in 12月 2013
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