論説

消費財企業のサプライチェーン改革
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概要
  • これまでのベインの調査では、消費財業界では大きなディスラプション(破壊)が起こり、消費者企業の利益は2030年までに30%縮小する見込みとなっている。
  • そこで、優れた企業は、サプライチェーンにおいて従来とは全く異なるアプローチを採用することで、消費者や小売のニーズの進化に対応し、利益水準を維持できるように備えている。
  • 成功を収めている企業は、既存の制約に縛られず将来の姿から逆算する視点を持ち、サプライチェーンをセグメント化(目的に応じて分類すること)し、活用できるデジタルツールを徹底的に見極めている。

消費財企業は今、大きな混乱に直面している。消費者は商品にさらなる利便性を追求し、サステイナビリティへの配慮を重視し、革新的なブランドとプライベートブランドの双方を追い求めるようになってきた。透明性、トレーサビリティ、健康への配慮、個々人へのカスタマイズなど、消費者はこれまで以上に多くのものをブランドに対して求めるようになった。さらに、消費財企業にとって顧客である小売企業も同様に進歩してきた。eコマースの急成長やEDLPの普及によって小売業界では構造的な変化が生じており、その結果、小売企業は既に低水準にある利益率を死守するために、消費財企業と厳しい条件交渉に挑むようになったのである。

今後、消費財企業が製造した商品を小売企業に販売してもらうという伝統的なバリューチェーンは、一層衰退していくことが見込まれる。小売企業はバリューチェーンの川上・川下へ事業範囲を広げ、これまで意図的に避けてきた事業領域にも進出し始めている。例えば、食料品店は今や自ら製造設備を保有し、世界有数のメーカーと提携することで、非常に洗練されたプライベートブランドの商品を提供するようになった。企業によっては生鮮食品を自社の農場で生産するようにもなった。さらに、新しい販売チャネルや、メーカーと消費者をつなぐ企業が驚異的なスピードで成長を遂げている。D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の事業モデルやフードデリバリーサービスの競争が激化し、販売チャネルが多様化していくことで、消費者はジムやホテルといった場所でも商品を入手できるようになった。そして、そう遠くない将来に、道端でドローンから商品を受け取るといったことも現実のものとなるだろう。

このように、消費者と小売企業の双方からの圧力が高まる中、迅速なアクションを講じることができないブランドは大きな痛手を負うことになるだろう。別のベイン・アンド・カンパニーの調査では、十分な対策を取れない消費財企業は2030年までに利益が30%低下する恐れがあることを示した(ベインのレポート「Overcoming the Existential Crisis in Consumer Goods(英語)」を参照)。

多くの場合、サプライチェーンにおけるコストの増加によって、既に利益は失われ始めている。消費財企業は、多様化した販売チャネルのそれぞれの要件に対応し、より優れたサービスを求める小売企業のニーズを満たし、よりカスタマイズされた商品を好む消費者の要望に応え、個々の販売チャネル特有の商品パッケージを幅広く揃えなければいけないため、必然としてサプライチェーンのコストが増大してきているのだ。米国では、利益悪化の半分の要因がサプライチェーンのコスト増加によるものと見込まれている。一方で、プレイヤーの集約に伴う小売企業からのコスト圧力の影響は1/6、サプライヤーとの交渉激化に伴うコスト圧力の影響は1/3に留まる(図表1参照)。 

問題は、コストの増加と急速な技術進歩が同時に進む時代において、競争優位をもたらすサプライチェーンを構築できる消費財企業は少数に限られるということである。このような企業は、サプライチェーン改革を通じて効率性、信頼性、機敏性(アジリティ)、スピードを改善し、利益率を5-10%pt向上させている(図表2参照)。例えば、ある飲料メーカーは、特定カテゴリーのリーダー企業でありながら、コストの面では競合他社より優れているとは言えなかった。というのも、展開地域を拡大することで事業を急成長させてきたのだが、調達、製造、物流の効率化には手を付けてこなかったからだ。そこで、同社はサプライチェーン改革に着手し、品質を維持しながらも複雑性を解消することで、数量当たりのコストを20%以上削減し、コストの面でもリーダー企業としての地位を確立することとなった。

実際、消費財企業の中には競合他社よりも先んじて、商品計画から調達、製造、生産拠点、カスタマーサービス、物流に至るまでのEnd-to-Endのサプライチェーン改革に着手している企業もある。そういった企業は、サプライチェーンをセグメント化、モジュール化、簡素化し、計画業務は自動化して人の介入を必要としないプロセスに切り替え、機械学習を用いた予測システムを構築し、次世代センサーといったインダストリー4.0のケイパビリティを獲得としようとしている。そして、これらすべてについて、アジャイルを活用しながらイノベーションを推進している。

我々の見解では、企業戦略に合致し、貢献できるサプライチェーンを設計することが重要であると考えており、優れた企業は次の3つの要素を重視している。

 

既存の制約に縛られず将来の姿から逆算する視点を持つ:消費財企業の経営陣がこれから作られる未来に向けて計画的に準備を進めていくためには、将来から逆算するというアプローチをベインでは推奨している。このアプローチでは、業界に大きな影響をもたらすシナリオを複数作成し、それぞれを評価する。

そして、その将来像をもとに、サプライチェーンのあるべき姿を構想する。シナリオ作成の際は、エコシステムやプロフィットプールの変化、消費者行動や嗜好の進化、技術革新、新たな競合やビジネスモデルの出現といった要素も考慮する必要がある。

これらの重要事項を念頭に置き、実現可能かどうかという視点に囚われずに検討することからサプライチェーン改革は始まる。ベインはサプライチェーン改革を支援する際、まず経営陣に、事業戦略を支え競争優位を生み出す「勝利をもたらすサプライチェーン」を白紙から設計することを依頼する。しばしば、事業運営の責任者たちは、これまで教え込まれた通りに現在の延長線上の改善に囚われてしまう。しかしながら、我々が求めるのはもっと直観に反すること、一歩下がってありうる未来を想像し、先見性に富んだ青写真を描いてもらうことだ。現状からの積み上げや既存の制約は検討せず、企業が理想的な商品ポートフォリオを有し、優れた協力関係が構築されたサプライヤーに囲まれ、完璧な人材配置モデルと最先端の製造設備を併せ持ち、デジタルやインダストリー4.0のケイパビリティも活用しながら、最適化されたルートで顧客に商品を配送できるというシナリオを書いてもらう。

こういったシナリオが描けた後に、設備投資額の上限、マネジメントできる範囲の限界、規制、ステークホルダーやコミュニティの懸念といった事業上の制約を加味してもらう。例えば、理想とするシナリオの実現には100億ドルの投資を要するが、実際に投下できる金額が10億ドルである場合、それに応じてスケジュールを再調整してもらう。どの制約を加味するかを決めるには戦略的な判断が必須だ。この判断こそが、達成可能な計画でありながら、平凡なものではない「勝利をもたらすサプライチェーン」を生み出す最初の一歩となる。往々にして、このプロセスがサプライチェーンのコストとケイパビリティの両面で価値を生み出す突破口となる。

 

セグメント化を検討する:顧客、地域、販売チャネル、カテゴリーといったセグメントごとに、企業にとっての重要性が異なることは、経営者なら誰でも理解している。しかしながら、業界上位の消費財企業は、ニーズが多岐に渡ることを起点として活用し、サプライチェーンを分類していく。彼らは、他社と同水準で良いと考える領域、他社より優位に立つべき領域、そして他社に対して真に差別化すべき領域を把握できているのだ。

グローバル展開するある消費財企業は、サステイナビリティに配慮した商品を提供することで差別化を図ることを決め、約20のブランドのサプライチェーンを切り出し、そこでは二酸化炭素排出量の減少など、社会貢献を重視した。このサプライチェーンの分離によって、同社は二酸化炭素排出量を15%削減してサステイナビリティの目標を超過達成するだけでなく、売上高の成長も加速させた。これらのブランドの成長率は他のブランドよりも69%高く、全社の成長の75%を占めた。さらに、20%のコスト削減を実現し、新製品を他社よりも速く、安く開発することにおいて他社を圧倒していった。

この企業とは異なる切り口でサプライチェーンのセグメント化を行った消費財企業の例も紹介する。この事例では、利益率が低い事業のサプライチェーンでは効率性を追求し、調達、製造、カスタマーサービス、及び物流プロセスを標準化する一方で、企業成長の源泉となる利益率が高い事業のサプライチェーンでは、効率性よりもサービスレベル、スピード、柔軟性を重視した。同社は販売チャネルやビジネスモデルの変化に伴って新しい要件が生まれることや、デジタル技術によってサプライチェーンの機動性や柔軟性が飛躍的に高められることを予測できていたのである。

サプライチェーンのセグメントは、主に3つに分類される。1つ目は、「シンプルさと効率性を重視したサプライチェーン」で、コア事業の推進を促すものだ。このサプライチェーンでは、品質が均一化された製品を最小限のコストで大量生産できるように設計されている。2つ目は、「複雑性への対応力を重視したサプライチェーン」で、カスタマイズやオプションの追加に対応可能とすることで、信頼性とコスト抑制の両立を図る。3つ目は、「アジャイルと適応力を重視したサプライチェーン」で、事前に予想できない新たな顧客のニーズに迅速に対応できるようにすることで、非連続的な成長を達成する。

ある食品メーカーでは、この3つに分類するアプローチを生産拠点に適用し、それぞれ異なる製造機能を持たせた。規模を重視した拠点では、少数の商品に対象を限定して大量生産を行い、柔軟性に軸を置いた拠点では、短いリードタイムで小ロットの生産を行う。そして、試作品向けの拠点では、市場投入前でさらに小さいロット数のテスト製品を生産している。さらに、同社は、コモディティ商品の製造委託、配送センターにおけるケイパビリティの差別化、パレット単位からユニット単位までのピッキングを組み合わせるモジュラー型の物流様式に新しく重点を置くことで、他社を圧倒する地位を築こうとしている。成長戦略の実現には、他社よりも迅速に低コストでイノベーションを生み出すことが重要だ。加えて、この企業では、サプライチェーンのコストを10-20%削減し、二酸化炭素排出量も15%低減できると見込んでいる。

 

デジタルツールを戦略的に活用する:デジタルツールの導入は、拙速であることや、逆に過度に時間を費すことがよく起こる。リーダー企業は、組織のデジタルケイパビリティを評価し、デジタル技術が自社の戦略上でどのように活用できるかを徹底的に見極めている。このような企業は組織全体で横展開が可能な技術、試験的に運用すべき技術、あるいは実用化には時間を要する技術を区別できている。目標は、デジタルのケイパビリティを正しく取捨選択したうえで実際に活用することで、工場のオペレーションを効率化することだ。言い換えれば、今ある資産を一から構築し直すのではなく、最大限活用することなのである。

例えば、デジタルの導入で成功を収めている企業は、高度な分析手法を活用して物流計画や需要計画を改善している。また、管制塔の役割を担う部署において、KPIレポートで課題が特定されるのを待たずに、サプライチェーンのインシデントを発見することができている。そのインシデントとは、原材料の到着遅延から、製造オーダーの不備、発注遅延をもたらす在庫の認識差異に至るまで、あらゆるものが該当する。しかしながら、管制塔の役割を担う部署で問題を発見できたとしても、業務フローの一環として問題の改善を目指すチームも必要となる。そのチームが、例えば計画策定よりも早いタイミングで在庫を出荷するといった適切なアクションを取ることに備えていなければならない。

前述の飲料メーカーは、デジタル技術の活用機会を見極め、特定の工場で生産プロセスを自動化した。そして、その特定工場で最もパフォーマンスが良いSKUを生産することで、最大限の効率化を図った。同社はまた、主要サプライヤーとスケールメリットの最大化に取り組み、計画業務に高度な分析手法を活用することで将来の消費量を予測する能力を飛躍的に向上させた。こういった取り組みによって、以前よりも幅広い変数を加味できるようになり、予測の精度が大幅に改善された。結果、この企業はコストリーダーという新しい地位に加え、ダイナミックに変化する顧客ニーズへ迅速に対応できるという観点からも、市場でのポジションを高めることに成功した。

3つの要素を重視している消費財企業こそが、サプライチェーン改革を成し遂げ、利益悪化の圧力を弱め、ディスラプションが起こる時代に合わせた事業戦略を作り直すことができる。既存の制約に縛られず将来の姿から逆算する視点を持つこと、サプライチェーンをセグメント化すること、デジタルツールを戦略的に活用すること。この実績に裏打ちされた3つの方法を採用することで、消費財企業は自信をもって将来へ突き進めるようになるだろう。

Allard Vegter is a Bain & Company partner based in Amsterdam. Thomas Kwasniok is a partner based in London. Adam Borchert and Drew Woodhouse are partners based in Boston and Sydney, respectively. All are members of Bain’s Consumer Products practice.

監訳:ベイン東京オフィス パートナー 若林英紀

 

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