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2020年の世界に成長をもたらす8つのマクロトレンド

2020年の世界に成長をもたらす8つのマクロトレンド

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2020年の世界に成長をもたらす8つのマクロトレンド
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今後10年間で各1兆ドル以上規模の成長をもたらす8つのトレンド

 

グローバル規模で日々混乱が起こっており、ビジネスリーダーや投資家は直面する巨大な課題を前にして立ち往生している。巨大化した先進国経済は、拡大する政府債務、変動の激しい市場、不安定な通貨、政治的な行き詰まり、成長の行き詰まりに、頭を悩ませている。一方、中国やインド、その他の新興国は、過去20年で最も注目された驚異的な経済成長に順応するために、自らの強みを変化させつつある。

従来の見解では、現在の混乱は、近い将来の経営上の課題を設定するであろう深く永続的な構造変化の前兆とみられていた。我々は、企業が適応し成長するためのオプションを形成する不連続なマクロ経済ショックが、今後10年のうちに到来すると想定している(図1)。


しかし、悲惨なニュースや日々の市場の摩擦の背後で、グローバル経済の中では8つの数兆ドル規模のマクロトレンドが進行している(図2、図3)。マクロトレンドの潜在的な成長余地に関連する企業や政府の動きは、世界中の至る所で散見されるだろう。

確かに、欧州、日本、米国は長きにわたる経済的混乱と低成長に直面しており、特に今後5年はその傾向が顕著になるだろう。しかし、これから説明していくように、マクロトレンドの半分は新興国経済と先進国経済の両方に影響を及ぼすと思われる。新興市場に魅力的な成長機会がある一方、未だほとんど報道されてはいないが、世界の市場をリードする先進国市場においても成長機会があると我々は見ている。


 

グローバル成長のシフト

経済的混乱は継続すると思われるが、世界経済は長期にわたって年平均3.6%で成長し、世界のGDPは2020年までに現在の水準よりも4割増となる90兆ドルにまで増大する見込みである。特に成長の源泉は、新興国経済にますます傾斜していくだろう。先進国は現在世界のGDPの3分の2を生み出しているが、途上国及び新興国は将来的にGDP成長のシェアの大部分を占めるだろう。結果として2020年までに、世界のGDPにおける先進国の割合が58%まで下がるという短期間で大きな変化が生じると予想される。

世界人口7.5億人の増加は、その大半が途上国や新興国に起因し、GDP成長の内訳の約4分の1を占める。残りのGDP成長は生産性向上によるもので、一人当たりGDPが今後10年で30%成長すると見込まれる。今後数年間は欧米諸国において厳しい状況が続くと予想されるものの、特に政府による公共セクターおよび民間セクターにおける債務負担削減が進行する場合においては、後半の5年間で成長を加速する道筋が見出せるだろう。我々の分析においても、欧州や米国は2020年までに世界のGDP成長に対して8兆ドルもの貢献をすると予測している。

マクロトレンド① 10億人の新しい消費者

新興国で増えつつある富は、膨大な数の新しい消費者に対して幅広い消費をもたらすことになる。それら消費者の多くは、「グローバルな中産階級」として位置づけられる、世帯収入が5,000ドル以上で、より多くの可処分所得を有する人々である。彼らは先進国の中産階級と比較して依然かなり貧しいものの、人数が莫大で、そして幅広い商品やサービスを購入するため、新しい市場を生み出すことになる。 2020年までの世界のGDPへの推定貢献額:10兆ドル

マクロトレンド② 老朽化したインフラと新規投資

先進国において経済に活力を取り戻すためには、半世紀以上前につくられた基幹インフラの多くを改修・拡張する必要がある。厳しい国家財政を背景に、官民パートナーシップの機会が促進されるだろう。一方、新興国では成長に伴う将来の拡大に向けた基礎を築くために、継続的なインフラ整備が必要となる。 2020年までの世界のGDPへの推定貢献額:1兆ドル


 

限りある資源をめぐる競争の激化

人口増加、生産活動の拡大、都市化や経済の好況により、食料、水、エネルギーや産業用資源といった基本品目の争奪戦が始まる。多くの国が重要な供給ラインを確保し守ろうとしていく中、現在先進国が独占している原材料へのアクセスに新興国も参入することで競争が生じ、地政学的な不安定性を助長する。企業には、危機への準備とビジネスモデルの柔軟性を維持するために、シナリオプランニングへ継続的に投資することが求められる。

マクロトレンド③ 工業化に続く軍事化

アジアの経済力が増している様に、政治力や軍事力もアジア優位に動いていくだろう。中国では近年、金額ベースでもGDPに占める割合としても軍事費は増加傾向であり、最新のデータによると2010年の軍事支出は前年比6.7%増の1,600億ドルに達している。年々増加する中国の軍事支出は、中国のみならず近隣諸国に対しても防衛予算の増加を促し、インド洋や南シナ海の航路上での紛争のリスクが高まっている。これらの軍備増強によって、購買国が自国での軍備生産を実現するまでの期間、米国や欧州の兵器メーカーは短期的に兵器販売する機会を得るだろう。また、国家や企業は、非国家組織によるテロ、紛争地域での暴動、サイバーテロの継続的なリスクに対処するための対策への支出を増加させている。 2020年までの世界のGDPへの推定貢献額:1兆ドル

マクロトレンド④ 一次資源の産出量の増加

より多くの国々で石油や天然ガス、穀物やたんぱく質、新鮮な水や、銅、アルミニウム、レアメタルといった鉱物に対する需要が高まり、今後10年間にわたって価格変動や一時的な物不足を生むことになる。これらの資源は、新たな用途や需要の高まりに連動して、価格が不安定になりインフレが激化する。例えば、トウモロコシは現在、食用だけでなく輸送用のバイオエタノールの原料でもある。資源は相互に関連しており、例えば鉱物や燃料の抽出にはより多くの水が使われている。鉱物はクリーンエネルギーをつくるための風力タービンの製造にも使われており、またより多くの燃料が新たな飲料水の淡水化のために消費されることになる。新たな化石燃料の存在により代替エネルギーへの投資のインセンティブは減少するものの、保全対策や代替資源や技術開発への投資が、一部の領域で増えると思われる。 2020年までの世界のGDPへの推定貢献額:3兆ドル


 

より賢く、より健康的な人々

人材開発への投資は、最も強力な長期的成長要因であり、経済を前進させるだけでなく、雇用の専門化と分業を通じて資源の制約を打破することが可能となる。大半の新興国は、人々の健康や教育への投資を上回るペースで成長しており、それは潜在的な成長の制約要因となる一方で、そのギャップを埋めるためのビジネスチャンスがあるともいえる。

マクロトレンド⑤ 人的資本の開発

新興国では「農場」から「工場」への大規模な雇用シフトによって社会情勢に変化が起きたが、未だ社会的なインフラ整備が追いついていない。今後10年間で教育機会の提供と教育水準の改善ができるかが、高付加価値サービスや技術をベースとした経済への移行にとって極めて重要である。同様に、基本的な医療体制やより強力な社会のセーフティネットを構築するためには、これまでと比べてはるかに大きな投資を必要とする。 2020年までの世界のGDPへの推定貢献額:2兆ドル

マクロトレンド⑥ 富裕層の健康維持

先進国における高齢化、医療の量と質の向上、医療支出効率化のための決済システムの改善は、イノベーションや医療改革に拍車をかけるだろう。 2020年までの世界のGDPへの推定貢献額:4兆ドル


 

新たな革新の波

既に先進国においては我々のライフスタイルを一新し得る革新が起こり始めており、次世代のベンチャー企業は斬新な製品やサービスの開発に拍車を掛けている。3Dプリンターの出現は小ロットの特注品をより低価格で提供することを可能にし、製造業にブレイクスルーを起こしている。

マクロトレンド⑦ 一味違う上級さ

iPad やTwitterなどの新技術の延長線上において、新たな形態のイノベーションが起こるだろう。「ソフト」イノベーションに投資を集中させている企業に注目すると、一般的な消費者向けの製品や高品質高価格な製品、多種多様なニッチ商品に加えて、新たなカテゴリーとして富裕層へのプレミアム製品やサービスを提供している。ソフトのイノベーションはコーヒーの楽しみ方(ドリップコーヒーよりモカチーノ)から、衣料品の購入方法(既製品を店舗に買いに行くスタイルより、自分にあったサイズの服を自宅に郵送してもらうようなスタイル)まで、我々の消費行動を一新する可能性を秘めている。富裕層ビジネスに機運を見出したイノベーターは、今後新たなビジネスを生み出していくだろう。 2020年までの世界のGDPへの推定貢献額:5兆ドル

マクロトレンド⑧ 次の革新への準備

大きなイノベーションの波が押し寄せている。今後10年間の隆盛を有望視されているのが、5つの潜在的な基盤テクノロジー(ナノテクノロジー、遺伝子学、人工知能、ロボット工学、ユビキタス)である。新しいテクノロジーは相互に補強しあう傾向がある。例えば、ナノテクノロジーの進歩は、人工知能に必要な計算能力実現へのブレイクスルーとなることに加え、遺伝子学の進歩を加速させるDNA改変の新技術を生み出すだろう。2020年の終わりにかけて、基盤テクノロジーが研究段階のプロトタイプから実際の製品や工業プロセスへの応用段階に移行するに従い、製品の生産効率が飛躍的に向上し成長が加速するだろう。2020年までの世界のGDPへの推定貢献額:1兆ドル

企業がこれら8つの大きなマクロトレンドのどこに成長機会を見出すかを考える上で、下記の点について注意が必要である:

  • 10億人の新しい消費者は、「同じ消費者」ではない。新たな10億人は先進国の消費者とは大きく異なる。彼らの年間世帯収入の中央値は2020年にかけて2万ドルに以下に留まる。彼らにより構成されるマーケットには低価格商品への大きな潜在的需要が存在し、これは企業のマーケティング担当者にとって今後数年で中産階級に移行する人々の趣向に影響を及ぼす重要なチャンスとなる。しかし、新興国の消費者は収入の差により先進国の消費者とは求める商品が異なる。グローバル企業はこの新しい消費者に効果的に訴求する商品を届けるにあたり、これまでとは異なるコスト構造による低価格商品の開発が求められる。また企業は、消費者が全ての商品カテゴリーにおいて徐々に高価格帯商品を購入するようになると期待するのではなく、新しい消費者は質よりも価格を優先し、より安値な商品を選択し続けると思っておかなくてはならない。
  • 欧米諸国を見限る必要はない。中国とインドの経済規模は急速に拡大するものの、2020年までの10年間の消費の予測成長額14兆ドルに占める割合は4分の1超に過ぎない。米国とその他先進国の経済規模は全体の40%超の6兆ドルを占め、今後も世界の上流中産階級の大多数を占めることになる。また、先進国で進行する高齢化は、市場の縮小としてではなく新しい挑戦の機会と捉えるべきだ。先進国であることだけが高度成長の源泉ではなく、老年人口が今後の成長の鍵を握っていることが大いに考えられる。
  • 「ソフトイノベーション」は飛躍的な利益をもたらす。2020年にかけての10年間は、既存の製品やサービスをよりプレミアムなものに改善したクリエイティブなビジネスが、利益を上げていくようになるだろう。ソフトイノベーションが起こり得る対象は、食品、家庭用品、交通機関や娯楽と多岐にわたる。ソフトイノベーションはまずファストファッションやファストフードのような小売業の概念に変革を起こすだろう。レクリエーション、レジャー、個人向けサービスもこの革新の有望な領域である。さらには公共事業のように、規制緩和によって価格以外に自社サービスを訴求する余地が生まれた分野においてもイノベーションが起こり得る。ソフトイノベーションが強力である理由として、携帯電話やSNSといったハードイノベーションと相互に進歩し得る点がある。それによって消費者がより意欲的に購入したくなる顧客体験が付加価値として提供され、更なる消費が促される。今後ほぼ全ての企業にとってソフトイノベーションと、そのために必要なマーケティング、顧客サービス、ソフトスキルに投資することが求められ、それを怠ると、競合他社に大きく差をつけられることになるだろう。
  • 人材の奪い合いが激化する。欧米諸国における高齢化と、中国とインドの継続的な経済発展により、マネジメント層の人材不足が世界中で現実のものとなるだろう。先進国と新興国の間で、流動性を増しているホワイトカラーの人材プールを共用することになる。さらに企業は、若くて高学歴な人材の獲得においては、起業という選択肢と競うことになる。企業がグローバルな競争力を維持するためには、ワールドクラスの人材を惹きつけ、教育し、確保し続ける必要がある。解決策のひとつは、高齢層や退職者の経験やスキルをより有効に活用することであり、技術の活用によって彼らが働きやすい勤務条件を提供することができるだろう。同様に企業には、増加する有能な女性管理職(とその配偶者)のワークライフバランスの実現のために、柔軟な勤務形態を提供することが求められるだろう。熟練した管理職を採用、教育、維持することは、競合優位性を築く上で重要なポイントになるといえる。

今後、悪化していくことも考えられる経済状況の中で、各企業は自社の経営にエネルギーを注ぐ必要がある。しかし短期的な苦境を乗り越えるのと同時に、長期的なマクロトレンドをうまく活用できるようにリソース調達を早期に開始する必要があるのだ。


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