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論説

買収後企業統合におけるチェンジマネジメント

買収後企業統合におけるチェンジマネジメント

  • 2017年6月14日
  • min read

論説

買収後企業統合におけるチェンジマネジメント

本レポートは、ベイングローバルで発行されたChange Management in Merger Integrationを和訳し、日本企業への示唆を加えたものです。

M&Aがもたらす価値は、もはや自明であると言っても良い。ベイン・アンド・カンパニーが過去11年超の案件を分析したところ、M&A活動に積極的であった企業はそうでない企業と比べて株主利益が高いという結果が出た。だが、これらの企業は自前での成長施策を補完するためにM&Aを正しく活用しようとはしているものの、その多くは買収後の統合で躓いている。経営者は、統合の失敗要因として人材、文化、チェンジマネジメント(変革プロセスのマネジメント)、並びにコミュニケーションを上位に挙げるが、これらの課題に対して正面から向き合う方法を正しく理解している企業はごくわずかにすぎない。

それが、合併公表後にアナリストが統合に関する実務的な質問をすることが多い理由の一つである。アナリストは、経営陣が買収後のチェンジマネジメントに積極的に対応していくことがいかに困難かを理解しているので、会社側が綿密な計画を有しているかどうかを確認しておきたいと考える。また、ベインの経験では、企業経営者側もまた多くの共通する疑問を抱えている:実際どこから手を付けたら良いか?どのようなアプローチ・ツールを、いつ使えば良いか?何が最も大切なのか?等の疑問点だ。

多くの場合、人材マネジメントと変革の実行を最優先事項とすべきという議論がなされる。しかし、いざ統合すると、変革の実行は優先事項ではなくなったり、それほど重要ではなくなったりすることがある。実際には、経営陣は基盤となる事業を遂行しつつ、戦略の一貫性を担保し、新組織を発足させ、シナジーを実現するという課題に、買収後すぐに、同時並行で対応する必要に迫られる。

幸いなことに、この変革をリードしていく指針となるようなシステム化されたアプローチが存在する。ベインでは、様々な業種の何百というクライアントに対してこのアプローチを採用してきたが、ここではある産業材メーカーを良い例として取り上げたい。大規模な買収後新たに着任したCEOは、当時抱えていた課題を総括してこう言った。「戦略的な根拠と統合シナジーについては疑問を抱いていない。だが、私は今、新しい会社を作っていかなければならない。顧客志向を維持し、予算を達成しつつ、世界中にいる何千人もの従業員をまとめ、わが社の目標達成に向けて一丸となって進んでいくには、どうすればよいのか?」

このCEOは、ベインが合併後の変革を成功に導く上で必須と考える、チェンジマネジメントにおける3つの基本原則に則った計画を立てた。統合にチェンジマネジメントを組み込むこと、経営トップから構成されるチームと基本方針を策定すること、並びに組織全体にわたって変革を上から下へと順次展開していくことの3点である。では1つずつ検討していこう。

統合にチェンジマネジメントを組み込む

合併時の変革を管理するには、手法を個々の事例ごとにカスタマイズする必要がある。これは基本的なことに聞こえるかもしれないが、実際のところ、合併案件や従業員が全て同じであると誤解している経営陣は非常に多い。例えば、シナジーの源泉、与えられた時間、企業文化や展開地域、従業員に対する合併の影響度合いなどによって、採用するアプローチを変える必要がある。

だが、ベインでは、何百もの統合案件を手掛けた経験に基づいて、大半のケースに適用できる一般的なチェンジマネジメントのガイドラインを策定している。特に、この産業材メーカーが直面していたように、買収企業、被買収企業の双方に大きな影響を及ぼす大規模な統合の場合、このガイドラインは特に重要である。

1点目は、チェンジマネジメントを単独のワークストリーム、独立した活動にしたいという焦りを抑える必要があるという点だ。チェンジマネジメントはツールやテクニックの寄せ集めではなく、人事部が主導する取り組みの一つでもない。経営トップが個人的にコミットした全社的取り組みにならなければ、即座に中身のない、コンセプトの塊や意味のないスローガンに成り下がってしまう。チェンジマネジメントは、経営アジェンダになっている必要がある。

ここで鍵となるのは、チェンジマネジメントを企業統合作業の設計・実施段階に深く組み込むことである。チェンジマネジメントをビジネス上の成果を拡大するための仕組みととらえ、まず少人数のチームを編成して基本方針をしっかりと設計し、次に組織の広範囲に変化の波を広げていく。ベインではこの流れを「カスケーディング」と呼んでいる。この産業材メーカーもこの手法を採用し、新任の統合担当役員(チーフ・インテグレーション・オフィサー)と配下のチームの指揮下で5つの最重要課題の解決に注力した。その課題とは、経営トップチームの意思統一、新たな社内文化の構築、両社共通の目標の設定、新オペレーションモデルの開発、そしてシナジー実現の5点である(図1参照)。

2点目は、チェンジマネジメント開始のタイミングを遅らせるべきではない、という点だ。経験豊富な企業は、既に買収前のデューデリジェンスの段階から売り手との交渉を通じて鍵となる変革上のリスクを特定する作業を始めている。大半の場合、最も負荷がかかる初動の部分は、買収契約締結直後/クロージングの前に十分余裕をもって取り組む必要がある。契約締結からクロージングまでの期間は「贈り物」のような時間であり、それを統合の基本方針策定に使うべきだ。実際には、契約締結からクロージングまでの期間の長さは合併の性質や必要な法的承認などによって様々だ。ただ、期間の長短に関わらず、経営陣はクロージングまでの間に達成できることを過小評価していることが多い。

経営トップで構成されたチームと基本方針を策定する

チェンジマネジメントは常に経営トップから開始される。経営陣一人一人が買収対象企業の相手方と協働し、新会社の主要事項を設計しなければならない。

この産業材メーカーのCEOは、買収契約締結直後に新任の経営チームとのワークショップ(全4回、各回はそれぞれ2日以上)を3ヵ月間にわたって設定した(図2参照)。目的は「新会社の基本方針を共に作り上げる」ことであった。このワークショップのうち3回がクロージングの前に行われたことは、特筆すべきであろう。つまり、ワークショップ実施に当たっては、独占禁止法の順守が必要だった。例えば、両社は競合他社としてふるまう必要があり、共有できない情報もある程度存在した。ベインの経験では、たとえこのような制約があっても、クロージング前に進められることは多い。この期間は合併後の新会社の基本方針を築くために利用可能であり、これは統合案件のほぼ全てに当てはまる。

このワークショップは各回とも、双方向の意見交換を軸に解決策を導き出すよう設計されていた。

このような共同作業が両社のリーダーシップチームにとって欠かせない根本的な理由がある。それは、変革において人が最も嫌うことは権限を失うかもしれないということだ。合併後の統合作業では通常、大きな変化を実現しなければならない。その実現のためにも、可能な限り権限を再び与えるようにすることが不可欠である。

初回ワークショップのテーマは「理解」と設定された。互いのビジネスや組織、戦略に加えて、経営チームの個々人に関する理解を深められるように内容が設計されていた。参加者は事業のファクトベースや経営指標、組織図を確認し、互いの社内文化や、異なるプロセスや意思決定が実際にどう動かされているかを話し合う。組織図を読み解くことは誰にでもできるが、互いの理解を深める上では、今なぜこの組織形態になっているのか、時を経ていかに変化してきたのか、等の点を確認することがより重要である。

ベインは、何百ものクライアントの合併後統合支援の経験から、「共通言語」を作るのに必要な努力を多くの企業が過小評価していると考えている。経営トップは共通言語を作るにあたり、まずは互いの言語を理解するために十分な時間を割く必要がある。

二回目のワークショップは「意思統一」を目的に設計されていた。経営陣は両社の共有コストや顧客、ケイパビリティ(事業推進の能力)等の切り口で新会社の姿を定義した。これは、両社の異なる事業ニーズや特徴に合った最良なオペレーティングモデルを検討する基礎となった。加えて、この経営トップチームは新会社の5カ年計画と共通ミッション、核となる価値観、シナジーの目標値を設定した。

チェンジマネジメントを単独のワークストリーム、独立した活動にしたいという焦りを抑える必要がある。チェンジマネジメントはツールやテクニックの寄せ集めではなく、人事部が主導する取り組みの一つでもない。実際には、経営トップが個人的にコミットした全社的取り組みにならなければ、チェンジマネジメントは即座に中身のないコンセプトの塊や意味のないスローガンに成り下がってしまう。チェンジマネジメントは、経営アジェンダになっている必要がある。

経営トップチームがこれらの点に関して意思統一をすべく検討を行った際には、一歩踏み込んだプロセスとして個人、並びにチームとしての視点も議論に取り入れた。このCEOは、「統合上の課題」を「われわれ(チーム)」と「私(個人)」が補完するのだと述べている。例として、参加者が意見の不一致にどう対応すべきか、お互いにどうフィードバックを行うかを検討したことが、チームを構築する過程で大いに役立ったということを挙げる。最も重要なのは、初期の段階でこのように足並みをそろえたことにより、その後のプロセスで生じた大きな意見の不一致を防ぎ、シナジーの早期実現を含む事業上のプラスの結果をもたらしたということである。(補足「高パフォーマンスチームの基礎を築くための3つのテクニック」参照)

三回目のワークショップでは、経営チームが統合マスタープランを作成した。チームは大規模になった組織の人員を迅速に動かすことに重点を置いた。具体的には、「カスケード」を形成、つまり職責レベル別や国別など、段階的に全ての従業員を変更計画に巻き込み、計画の一旦を担ってもらうというアプローチを採用した。

四回目のワークショップは、クロージング後に開催されたことから独占禁止法の制限が適応外となった。経営トップチームでは様々な議題を扱ったが、なかでも組織全体のモチベーションを高める計画や、両社のリーダー層100人を集めた合同オフサイトミーティングの詳細に関して、重点的に検討した。

全体として、このワークショップでは幅広い内容を取り上げた。強い経営チームを編成することから始まり、ゴールはより良い新会社の基本方針を築くことであった。参加者は互いによく理解し合い、独自の意思決定の手法も構築した。また、ある参加者の言葉を借りれば、「たまにはケンカもしながら」議論しようという約束も交わされたとのことである。


高パフォーマンスチームの基礎を築くための3つのテクニック

1. 自己紹介

参加者には自身の職責や経歴以外の内容にも触れるよう指示する。参加者はそもそもどういう人間なのか?何に興味を持っているのか?最も気に留めていることは何か、それはなぜなのか?また、自己紹介を数分間に制限する必要はなく、この先も掘り下げていく機会はあるということを心に留めておく。

2. 二人一組で作業する

グループワークショップをサブグループに分割する。例えば、二人一組になってお互いのこれまでの代表的な仕事を説明し合った後、他己紹介的に、相手の内容を全体に発表する。もしくはオープンな雰囲気を作り出す為に一対一の短いフィードバックセッションを設定するなど、早い段階で個人間のつながりを築けるような仕掛けを実施する

3. ライフライン

お互いのことはできるだけ早く知るように、また細かい問題にこだわらないように努める。「ライフライン」とは人生の中で最も大きな影響を与え、自らを形成することになった二つの出来事を紹介するエクササイズである。聞き手は耳を傾けるだけでコメントはしない。同じような結果は二つとないが、経営チームに対して常に非常に深い影響を及ぼす。



組織全体にわたって変革や変化を上から下へと順次展開していくこと

同じ思いを持った経営トップチームが協力して新会社の基本方針を固められれば、組織内でより広範囲に統合計画を展開する最適なタイミングを迎えたことになる。結局のところ、本当の変革とは組織全体が新たな仕事のルールを消化し、それに基づいて仕事を進め、それを自らのものにできた時に初めて実現される。よくあることだが、きれいに整えたプレゼンテーション資料を電子メールに添付してグローバルリーダー全員に送信するだけ、もしくはタウンホールミーティング(トップと従業員が対話する会議)で一方的に伝えるだけに留まってしまう企業が多い。この種のコミュニケーションは、情報を十分与えられるという点では優れているが、否定的な反応を引き起こしてしまうことが非常に多い。人々は権限を失ってしまうという感覚を抱くのだ。実際の現場でも、「もっと早くに私はこの検討に加わっているべきだったのに」「このやり方はここではうまくいかない」「私の意見も聞いておくべきだったのに」という声を耳にしてきた。中には、従業員が伝えられた内容を理解できていなかったり、答えが示されない質問が山のように残った場合もある(「私の部署にとって、いったいこれは何を意味するのだ?」というような感覚が残される)

この産業材メーカーでは、人々の賛同やコミットメントは、一方的なコミュニケーションではなく個人的な関わりを通して実現するものであるとCEOが認識していた。したがって、組織全体に対して上から下に展開していくプロセス(カスケーディング)を全力で実施することにした。このカスケーディングプロセスは個人を巻き込み、「自分事」と捉えられるよう設計されていたので、合併後統合に関わったあるシニアリーダーは「まるでボディコンタクトの多いスポーツのよう」であったと的確に表現している。

両社のリーダーが基本方針策定のワークショップで採用したチェンジマネジメントのアプローチは、カスケーディングプロセスでも同様に、各部門や各地域で使用することが可能である。つまり、同じ原則が当てはまると言える。したがって、この産業材メーカーは、クロージング後2~3週間のうちに両社のリーダーシップチームのトップ100人を集め、「理解する、意思統一する、実行する」という経営チームが取り組んだものと同じテーマのワークショップを3日間かけて実施した。(補足「参加者を巻き込むワークショップ作りのコツ」参照)

参加者を巻き込むワークショップ作りのコツ

1. チェックイン、チェックアウト

最初と最後の挨拶を参加者にしてもらうようにする。ワークショップは主催者ではなく、参加者のためのものである。

2. インタラクティブ

発表時間は全体予定の五分の一ほどに収める。その他の時間帯は、グループを組み替える、掲示板形式やフリップチャートを使う、外を散歩することを提案するなど、形式に変化を持たせ、休憩時間を十分組み込む。

3. 「どのように」は「なにを」と同様に重要

内容をどのように共有するか、意見とフィードバックをどのように収集するかを設計する。

4. 内容と参加者に等しく焦点を当てる

ワークショップはその名の通り"ワーク"に取り組むものである。ただし、参加者が互いのことを知り、つながりを形成してチームとして信頼しあう必要があることを忘れてはならない。ワークショップの設計には、参加者に関する側面を組み込まなければならない。

5. 迅速なフィードバック

ワークショップ終了直後に無記名式のアンケートで評価とコメントを集める。フィードバックを参加者と共有し、次回ワークショップに反映する。

初日はチームでインタラクティブな課題に取り組んで互いの文化を理解し、ガイド付きで販売現場を見学し互いの事業と製品を理解することに努めた。

二日目にはゴールに焦点を当て、まず新会社の統合された目標・ミッションを定義し、具体化する共同作業から開始した。これが重要なのは、二つの会社にそれぞれ別の歴史や文化があるからである。新たなミッションは単に多くのメンバーに通知するのではなく、このトップ100人に権限を与えるべく、二つの選択肢に対する投票が実施され、投票数の多かった選択肢が採用された。議論が白熱した項目の一つは、会社のミッションとして最終顧客を第一に考えるべきか、それともチャネルのパートナーも同等に大切であるか、ということだった。この投票・議論のプロセスを経て、重要な戦略的意思決定を行う際に、自らの意見が反映される、つまり、チームに権限があるという意識が植え付けられた。

参加者はまた、新たなオペレーティングモデルを精査し批評を加え、合併後の新たなビジネスで成功するために必要となる価値観やリーダーの行動規範に関する意見をまとめ、この日を終えた。一つの例として、市場への進出モデルがチャネルパートナー経由から直販に移りつつある業界では、経営陣が、顧客が個別に抱える課題について質問し、調査することを奨励するような環境を育成することが欠かせないという意見が上がった。

最終日にはこのトップ100人が実際に行動に移す準備を進めた。その目的は新たに設定した財務目標が達成可能かどうか見極めることであった。議題には、その場での投票、少人数のグループに分かれて具体的なガバナンスのあり方の検討、実行上の3大リスクを緩和する手段の特定・計画への落とし込みなどが含まれていた。大きなリスクの一つは、拠点での指揮命令系統の変更に関して、経営陣の後押しが不足していることだった。

これに対し、経営チームは「サイトヘッド」の役職を作り、各地域の経営幹部がその責務を負うようにした。

この産業材メーカーの次の課題は、10人の経営チームだけでなく、100人もしくはそれ以上のリーダーシップグループがこの変革を上から下へさらに展開する(カスケードする)際のサポートであった。この会社では、地域別、事業別の統合に関する優先課題に応じて、より小規模のワークショップを展開し、次の階層の幹部に広めていった。参加者は合併方針について議論し、意見を述べ、課題に取り組み、以下のような質問をすることもできた。「カントリーヘッドの私にとって、新しい財務カレンダーはどのような意味を持つのか?」「新しいモデルの製品導入パッケージ責任者は誰なのか?」経営陣はまた、定期的にタウンホールミーティングを開催した。毎月行われたこのミーティングでは質問を受け付け、従業員が対話に参加した。加えて、イントラネットやソーシャルメディアなどを活用した日頃のコミュニケーションも、これらの取り組みを後押ししていた。

これら意思疎通の全過程において、会社は活発な議論と健全な衝突を後押ししていた。ベインの経験から、これは賢明なアプローチだと言える。統合の際、意見の相違を扱うには直接話し合うことが最も良い。そうでない場合、意見の相違が埋没してしまうか、さらに悪いケースでは解決するのが難しくなってしまうこともある。

変革の機運をプロセス全体で維持すること、並びに結果をトラッキングすることが肝要だ。この点に関して、すぐれた企業は統合の指揮を執り、実行する責任者として最高統合責任者(チーフインテグレーションオフィサー)を任命している。この責任者は統合管理オフィス(インテグレーションマネジメントオフィス、IMO)を監督する。IMOは、カスケーディングと組織内の展開を計画し、目的・目標の設定(部門別、地域別、および今後のシナジーに対する目標を決定するなど)を行う部署である。

この産業材メーカーではIMOが審判とコーチ双方の役割を果たし、3種のサポートを提供していた。一つ目は購買などのシナジーを生み出す施策のサポートで、二つ目は機能の統合へのサポート(例えばファイナンスやIT、人事などの部門で共同プロセスとインフラを整備することなど)である。三つ目が、エグゼクティブチーム並びに人事部と共同で行った、チェンジマネジメントへのサポートであった。IMOはこの3つのサポートにほぼ同程度の時間を割り当てている。

また、IMOは検討に一定のリズムを設定・維持する役割を担うこともよくある。つまり、一連の定例会議や締切日を設定して、迅速かつ効率的な意思決定を後押しする。これは直感的には違和感があるかもしれないが、現実にはこのような厳密なプロセスの実施には多くのリソースは必要とされない。むしろ、明確さが高まり無駄を排除することができることから、組織の圧倒的多数を占める人材を本業に集中させることが可能になる。これは統合のような非常に大きい変革の際には特に重要なことである。

この上から下へのカスケーディングプロセスは、綿密にモニタリングされる必要がある。実際の統合案件でも機能した方法の一つが、月次リスクアセスメントである。変革をリードする選抜グループが、現場や重要部門に近い従業員に対して定期的に聞き取り調査を行う。担当者は鍵となるリスクが大問題になる前に表面化させ、経営陣の目に留まるように、また、大きな障害にぶつかった際はサポートを得られるようにする。基本的な考え方は、実施に関するリスクをいち早く判別し、緩和することなのだ。

この点を強調するにあたり、この産業材メーカーの最高統合責任者は自らのチームに対して「健全な懐疑心を持とう。君たちが赤信号を出せば、私は君たちを助けるために何ができるかと問うだろう。だが青信号ばかりだと私は何か疑わしいと思い、君たちの状況判断能力に疑問を抱くだろう」と述べている。

統合にチェンジマネジメントを組み込むこと、経営トップから構成されるチームと基本方針を策定すること、並びに組織全体にわたって変革を上から下へと順次展開していくこと。この3つの原則を適用することが、統合を成功に導くためには欠かせないと、この産業材メーカーは気づいたのだ。

最終的に、この会社のCEOは経営トップチームと意思統一し、通常は数年かかるであろうことを数か月でやり遂げた。事実、この時間への先行投資は大きなリターンをもたらした。従業員は目に見えて協力的になり、この企業は従業員満足度で上位25%に入るほどになった。これは、大規模合併の直後では非常に珍しいことである。シナジーは計画に先行して現れ、合併段階でも成長は加速し、株価も上昇した。つまり、結果が出るまでの期間が通常よりも短かったのである。そして最も重要なことは、この産業材メーカーがこのプロセスを利用して新たな、そしてこれまでよりも良い会社を作り上げることができたということである。


日本企業への示唆

本稿では、ベインの経験に基づいて策定した、買収後企業統合のチェンジマネジメントの「型」を、プロジェクト事例やワークショップなどのツールとともにご紹介させていただいた。これは、業界やディールに関わる企業の国籍を問わないものであり、日本企業の手掛ける買収後の企業統合にも当てはまる手法である。

日本においても企業の統合事例は多数あるが、実態を紐解くと、官主導の業界再編や、窮余の末の救済など、そもそもの統合の動機が偏っていたり、とにかく「対等であること」を重視するといった目的意識の偏りが見られることが多かった。このような企業統合においては、統合を通じた企業価値の向上という成果が、必ずしも最優先で追求されていないケースも散見される。

近年では、クロスボーダーディールの拡大を背景に、日本企業が海外企業を買収・統合したり、逆に日本企業が買収・統合されたりするケースが増えてきている。そのようなケースでは、両者の統合に関する考え方、そのアプローチの巧拙が、様々な「摩擦」を引き起こすことが多い。以下は、「摩擦」を引き起こす日本企業の典型例である。

  • 統合までの想定時間軸が長すぎ、Day1前後に"スタートダッシュ"がかからない

  • 統合効果が財務面・戦略面で明確に定義されず、統合の「成功の定義」が曖昧

  • 新社経営陣が明確な戦略目標、KPIを共有しないままDay1を迎え、同床異夢に陥る

  • ディール推進者と新社経営陣として送り込まれる人物が別人で、引き継ぎも不十分

  • 統合作業、統合新社において誰がリーダーシップをとるのか、決定権を持つのかが曖昧なままディール・統合準備が進行

  • 地域・事業内容面で「飛び地」の買収・統合の場合に、既存経営陣に経営を丸投げ

  • 子会社統合において、統合後に本社は"放置"、管理もしないが支援もせず

  • 2社がバラバラのまま存続し、人事制度、キャリアパス、仕事の進め方等あらゆる側面でダブルスタンダードとして放置

結果として、本来「時間を買う」ために実施された買収・統合の意味を失わせるほど、「摩擦の解消」に時間・マネジメントのリソースが奪われてしまったり、問題が深刻化し、最終的にディールそのものの失敗(売却、減損等)、企業価値の棄損につながってしまう事例も見られる。実際、「摩擦」が発生した初期段階、問題が顕在化し経営課題としてスポットライトがあてられた段階等、様々な段階でご相談を頂くことがある。

下記「M&A成功のためのサイクル」をご覧いただきたい。買収後の統合は、M&Aサイクル全体の一部である。実は統合における問題は、より上流のM&A戦略の不在、デューデリジェンスや買収交渉における不備に起因していることが多い。例えば「統合作業・新社設立後のリーダーシップが曖昧」という事象の背景には、何のために買収・統合するのかというM&A戦略の骨格がしっかり定義されていない、買収側の「自社のケイパビリティの客観的リアリティ」の腹落ちがされていないといった課題が潜んでいるのだ。場合によっては、そもそも「買収先企業や統合会社を経営する」とはどういうことなのか、という経営・リーダーシップのあり方の基本的な思想が固まっていない、より深刻な課題が根底にあるケースもある。

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本稿では、実際に動き出した統合をどう成功させるのか、という点から、具体的なツールや手法のご紹介もさせていただいた。実際に企業統合の現場に立ち向かっていらっしゃる企業の方々には、目前の課題に対して何らかのヒントを提示できれば幸いである。同時に、M&Aは、成功する「型」を身につけた企業とそうでない企業との結果の差が非常に大きく出る領域であり、この「型」は、買収や統合といった個別の活動のノウハウの積み上げではなく、M&A戦略立案から始まる一連のサイクルを通じてはじめて作り上げられていくものでもある。統合の現場でのご経験・気づきを起点とし、より上流・下流工程に視野を広げ、成功するM&Aの「型」を身につける一助となれば幸いである。

 

ベイングローバルで発行されたChange Management in Merger Integration(英語)は、ページ上部のPDFダウンロードボタンをクリックしてご覧ください。

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