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論説

日本企業が海外M&Aを成功させるには

 

事業拡大のために海外に目を向ける日本企業が増えている。その中で成功するには、追求する取引の種類に応じて企業買収方法をカスタマイズしていくことが必須となる。

日本経済の成長の足取りが遅いため、事業拡大のために企業はM&Aに取り組んでいる。今や、日本企業による海外直接投資額の3分の2が、M&Aの形を取っている。日本企業による海外のM&A取引額は、過去3年で毎年34%増加し、日本企業によるM&A全体の50%を占めるに至っている。ベイン・アンド・カンパニーが最近行った調査でも、日本のトップ100社の役員に質問したところ、70社が海外での事業拡大を検討していると回答した(図1、 2参照)。

余剰資金がある場合によくあることだが、これらの会社は、収益を上げる機会を求めて海外進出に乗り出し、既存の企業を買収して新しい市場に参入する。それはすなわち、事業を新たに構築するのに時間や手間がかかる分野において、そこへ参入する資格を購入するということである。また、日本企業にとっては、新たなガバナンス規範により課せられた圧力に対応するための選択肢でもある。海外M&Aは主に4つのパターンに分けられる。(1) 周辺事業に参入して拡大していくもの、(2)コア事業分野を拡大していくもの、(3) 本格的な参入の前に、市場や周辺事業についての知見を得るためのもの、および(4) 現地企業との提携が必要な市場への参入のための取引である。

しかしながら、幅広い業界の日本企業の海外取引を支援した我々の経験を踏まえると、日本企業は、海外M&Aからもっと多くのリターンを得られるはずだと考えている。

海外M&Aを行う日本企業は、他国の企業と同じく、一般的なベストプラクティスを適用するとともに、個別の取引に応じて手法をカスタマイズしながら最大限の価値を得ようとする。例えば、日本企業がマレーシア企業のマイノリティ投資家として買収する場合、通常その企業への影響力は限定的と考えることが多い。取締役1名のみでは、いかにも心もとない。さらには、言語や文化的な障壁も存在する。しかし、巧妙なM&A買収者であれば、取締役や経営陣との関係構築を重視し、しばしば「ソフト」な手法を用いて、つながりと影響力を維持する仕組みを取り入れる。例えば、ノウハウ共有のために部門責任者のチームを派遣することもあるだろう。

 


 

MAの基本事項を正しく行う

すべての取引を成功させるために重要な基本事項がいくつかある(図3、4参照)。まず、すべての取引には、それが企業買収者に対して新たな市場へのアクセスを与えるものであるか、既存の参入資格に新たな機会を付加するものであるか、大幅なコスト削減をもたらすものであるかを問わず、十分に吟味された戦略的理由付けが必要である。全世界の主要企業250社の役員に対して行われたベインの調査では、成功した取引の90%の取引で、企業買収者のマネジメントチームが早い段階から明確な投資理論を作成していた。これは基本的なことに思えるが、ほとんどの市場において、取引に入る前に明確かつ詳細な戦略的論拠を設定しないまま開始してしまうことが驚くほど多いのである。経験豊かな企業買収者は、その理由付けを投資理論の形で構成し、取引について5、6点ほどの簡明な説得力ある説明により語ることができる。

 


 


 また、ターゲット企業を買収するにあたって、すべての買収者は、価値を生み出しクロージング後の事業を運営するよう位置付けるとともに、ターゲット企業に対して正当な価格を支払うことを担保するために、十分なデューデリジェンスと評価を実施しなければならない。企業が過払いをしてしまう理由が、特に海外取引においては多く見られる。例えば、国内の買収案件に適用されるデューデリジェンスと評価の一般的な基準をそのまま海外取引に適用してしまうことがある。国内企業を成長させる推進力を理解するためには一般的に入手可能な資料や報告書に依拠することで十分かもしれないが、不慣れな市場において買収を行う場合には、実際に行われているターゲット企業のマネジメント、ファイナンスおよび市場について、より深いレベルまで調査することが求められることが多いのである。しかし日本企業は、一般的な情報に過剰に頼ってしまう傾向があると我々は分析している。日本国内において十分に成功している手法であっても、 外国企業における問題や機会を見定めるためには最善策とは言えない。これは、成長中の事業分野において特に当てはまる。買収先企業の調査を深く行うことは、中核となるデリジェンスの段階だけでなく、文化的な相性やガバナンス・モデルといった統合的な要素についても求められることになるであろう。

デリジェンスには、スコープ取引、スケール取引、またはオプション買収によって異なるニーズがある。スコープ取引とは、新たな顧客、商品、市場またはチャネルを追加するために企業のスコープ(事業範囲)を拡大するものであり、事業拡大を目的とする国際取引においては非常によく見られる。スケール取引とは、同種の商品や顧客を増やすために企業のスケールを拡大するものである。オプション買収とは、新たな、または近隣市場に対する理解を得るため、または法規上もしくは投資上の制約がある市場に参入するためにマイノリティ投資家として買収を行うものである。何が最も重要な問題となるかは、状況によって異なる。米国の大企業を買収する場合には、シナジー効果の価値と成長性を厳密に調査することが重要である。市場が成長中の企業に対するマイノリティ投資家として買収する場合には、法的問題、パートナーの信頼性、および将来の成長価値に対して注目することが求められるであろう。例えば、インドネシアの小規模な銀行におけるマイノリティ投資においては、同国において自社のクライアントの子会社として機能するように事業ライセンスを取得するための戦略となる可能性がより高くなる。このように、シナジー効果に対する期待より、広範な戦略の一つとして買収することもある。こうした戦略に対し、買収がどのように機能するかについて明確に理解していることが重要となる。

最後に、買収後の統合について戦略的に考えることが、常に重要である。国内、海外のいずれの取引においても、買収後の計画や統合についての価値や緊急性について軽視することが、買収成功の阻害要因となることが非常に多く見られる。これは、物理的距離や文化的障壁の存在のため、海外での買収においては特に多い。理想的には、買収企業は、取引が公表される前であっても、統合プロセスについて計画を始めるべきである。買収が公表されたら、買収者は直ちにいくつかの優先順位を付けるべきである。これは、クロージング前になされるべきことをすべて洗い出し、取引がクロージングされ次第、企業が速く動けるように早期に多くの重要な決定を下し、かつ、最も重要なものについて統合するための基礎を築いていくことを意味する。

マジョリティ投資においては、買収が引き起こす不透明感によるマネジメント層の不安をやわらげるために、早期に人事の問題について取り組むことが重要である。また、現場や販路および販売モデルについての意思決定を、公表の直後でクロージングや統合の前にこれらの問題を担当する新たなチームも用いて行うなど、できるだけ早く対応することも重要である。これらは、マイノリティ投資案件ではあまり問題とならない。

成功するための4つの方法

日本の買収者はこうしたそれぞれの手法に長けている必要があるが、成功するか失敗するかは、取引意図に基づいて注力することができるかどうか、また、マジョリティ投資家として参入するのかマイノリティ投資家として参入するのかにかかっている。こうした基本的な教訓について習得する企業買収者は、成功する確率を高めている。例えば、近隣事業分野についての取引を成功させるためには、買収者は近隣事業分野において成功するための主要な能力を理解するように努力し、そうした能力が現時点においてどの程度自社が有しているかを見定める自己評価を行うべきである。また、企業買収者は、重複部分と新規分野の投資について計画するために買収者と近隣事業分野との間でどのように事業を配分していくべきかについても分かっている必要がある。

取引の種類のそれぞれについて特有な要求項目について見てみよう。 

近隣事業分野を拡大する取引

 2010年から2015年までに行われた海外取引の46%は、日本企業が最終的にはコア事業の強化に役立てることを目的としている近隣事業取引であった。これは、成熟した市場において、よく見られる目的である。

我々の調査によれば、M&Aにより海外の近隣事業分野に対する事業拡大を成功させる企業は、自社の世界戦略とターゲット企業とが強く適合するかどうかを注視している。一般的に、近隣事業分野が、いかにコア事業分野に価値を付加できるのか明確に定義づけられるかどうかが取引を決定づける重要な部分になっている。アステラス製薬が2010年に米国のバイオテク企業であるOSIファーマシューティカルズを買収した際には、その取引理論として、タルセバという抗がん剤の製造会社であるOSIを買収することで、どのようにアステラスが世界レベルの腫瘍学のプラットフォームを築くことに貢献できるかに加え、既存の泌尿器科と免疫領域のフランチャイズを増強することに寄与できるのか詳細に記載していた。

とりわけ、アステラスは、OSIの先進的な研究開発施設、新規開発のプラットフォーム、人材といった、OSIの成功を裏付けてきた重要な資源を活用することができるようになった。その他の付加価値として、アステラスは、タルセバの適応追加取得とR&Dにおけるパイプラインの拡大、そして特許期間を延長させることで薬剤価値を増大させることができた。近隣事業分野の付加価値特定のための努力は十分報われたのである。タルセバの売上は、買収後の4年間にわたって年率19%で成長した。 

参入する前に学習する

日本企業が特に成長分野の海外市場に事業拡大する場合には、そうした市場や、新規顧客となる可能性がある領域を学習することが多い。2010年から2015年の間の日本企業による海外M&A取引の27%は、学習目的の取引であった。これらの、典型的なマイノリティ投資家としての取引において成功するための優先順位としては、ターゲット企業が全体のポートフォリオにおいて長期的な貢献があるかどうかを見極めるためにより多くの時間を費やすことや、近隣事業分野がどのようにコア事業分野に付加価値をもたらすことができるかを明確に特定することである。

第一生命は、2008年にタワー・オーストラリア・グループの29%の株を買収するにあたってこうした活動に注力した。この保険会社は、買収にあたって強力な戦略的理論を有していた。第一生命は、オーストラリアのような安定して成長する市場において収益を上げるためにタワー社の経験を他の海外事業分野に適用することによって多角化経営を進め、他の市場においても収益性を高めることを希望していた。買収の前に、同社は、どのようにタワー社の価値の高いマネジメントの専門性を自社の海外事業に転用させて国際的なシナジー効果を挙げられるかについて詳細に書き出して、強固な取引理論を生み出した。また、マイノリティ投資としての持分を取得する段階については、市場を習得する機会として機能させることにした。最終的には、第一生命は、タワー社を100%買収することに価値を見出した。タワー社の取引は、その他の買収を急速に進めるきっかけとなり、第一生命が海外M&Aにおいて繰り返し可能な成功モデルを磨き、2011年から2014年から年率14%で収益を上げることに役立ったのである。 

コア事業分野を拡大する取引

成熟した市場におけるターゲット企業を日本企業が求める際の理論として3番目によく用いられる理論は、自社のコア事業を新しい地域に拡大するために世界的な市場ポジションを強化することである。2010年から2015年において、コア事業分野を拡大する取引は、日本企業による海外M&A活動の18%を占めた。このような取引を進める企業は、合併による統合とともにデリジェンスおよび評価プロセスについて、より注視するべきである。実のところ、成功するか否かは、価値の鍵となるリソースを定義するためにデリジェンスおよび評価プロセスを用いる企業買収者の能力にかかってくるのである。事業運営のコストは企業合併によって削減することが出来るだろうか? 関連製品の相互販売ができる機会があるだろうか? 流通および供給の能力を上げることができるだろうか? さらに、重要なのは、厳密にクロージング前の準備との統合を促進することであり、これはコミュニケーション計画に始まり、新しい体制におけるパフォーマンスの測定、モニタリングおよび報酬の制度まで含まれる。

最後に、コア事業の拡大については、明確なガバナンスおよび決定権を設定することについて特に注意を払うことが企業買収者に求められる。組織上の変更は当然重要である。しかしながら、「ソフト」な方法、例えば数年後に会社の役員になる可能性のある社員を確保し教育することも重要である。こうした関係性が生み出す影響力に投資することで、クロージングの前と後のプロセスの円滑化を図ることができる。

最良の企業買収者は、取引における価値、それが生み出すシナジー効果、およびブランドと顧客が重複する領域を生み出すことができる特定の領域の明確化を図るために、複数年にわたるやり取りを含む広範なデューデリジェンスを実施している。また、それらの買収者は、統合リスクを見極める厳密な統合計画を作成し、リスク低減策を策定する。統合計画には、統合前のリーダーシップ、およびターゲット企業の成長戦略についての共同決定を整合させるためのプロセスが含まれる。

我々の分析によれば、M&Aから最大限の価値を生み出すためには、さらに買収者は、例えば、買収者の従業員を買収された企業のすべての部門に配置するためのプログラムを策定し、シナジー効果を追跡調査するための実証済みシステムを導入し、コミュニケーションの透明性を組み込み、その他のポートフォリオ企業からの教訓を適用することによって、統合の実施についても同様に注意を払う必要があることが分かっている。

それと同時に、成功する企業は、マジョリティ投資家として参入するにあたって特に繊細且つ困難な人材マネジメント問題についても学ぶことに注力している。刷新された経営陣、組織図、および指揮命令系統を含む、新しいガバナンス体制について早期に公表する会社もある。これらの買収する側の企業は、主要な従業員候補者と個別に打ち合わせを即座に持ち、それらの不安をやわらげ、コミュニケーションを円滑にするために共通の企業言語を生むために取り組む。 

市場参入取引

日本企業は、外国企業による直接投資の規制といった市場参入のための法令上の要求事項を満たすために、又は他の方法では獲得することができない販売網を取得するために、海外企業を買収することがある。このような取引は、2010年から2015年における海外での日本企業M&A活動の9%を占めている。この取引においては、海外のターゲット企業に対して買収を行う前に、企業買収者は、買収される企業が自社の現在のポートフォリオにどのように合致するかを特定することによって、世界戦略との堅固な連係を確立する必要がある。ある企業は、海外取引が自社のポートフォリオにポジティブな長期的貢献をもたらしうると判断し、海外取引を世界戦略における重要な部分とすることにした。 特に、この企業は、買収が成長中のアジア市場において足場を得るために最も将来性のある方法であると認識した。同社は、この当該ターゲット企業のマイノリティ投資取引がどのような価値をもたらすかについて明確に定義づけることができた。これによって、買収者は、東南アジアに参入し、ターゲット企業がその市場において有する当該地域の他の資産を購入することによってその地位を確保することが可能となった。この買収は、どのように両社が技術、マーケティング、製造およびファイナンス情報を交換し、各企業の製品ポートフォリオを強化することでお互いに貢献できるようになるか、非常に詳細な青写真を策定していたのである。この取引以降、ターゲット企業は、買収者のアジア戦略における重要な一部を担っている。

日本企業は、成長するために海外に目を向けている。多くの日本企業は、取引理論、デューデリジェンスおよび統合についての準備およびカスタマイズを十分に行わないというリスクを冒している。しかしながら、十分に準備して臨んだ企業は、取引を成長戦略の主要な構成要素とし、追求する取引の種類に応じて必要となる能力に焦点をあてることによって、海外M&Aで繰り返し可能なモデルを磨くことに成功している。このような日本企業は国内での成長が鈍化している中であっても、全体として株主へのリターンを増やすことができる。

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取引の種類によって事業運営とファイナンシャルメトリックスがどのように異なるか?

事業運営やファイナンシャルの目標ならびに数値は、取引の種類によって異なる。買収の早期段階で目標を設定し、内部および外部の利害関係者を首尾一貫して整合させることが重要である。

コア事業を拡大する取引は、追加されたスケールおよび製品から価値を生み出す。よって、事業運営ファイナンシャル評価は、収益およびコストメリットのための規模の経済性に堅固かつ透明性をもって関連づけさせる必要がある。こうした取引は、機能によって詳細化され、コスト削減、効率性および/または新製品販売と関連付けられた事業運営のKPIを用いることでハードコスト・シナジー・ターゲットに適合する。同様に、これらの取引は、回収期間というハードルを用いて効率的に評価することができる。

対照的に、市場参入取引は、海外市場において将来追加投資をするために、拡大されたプレゼンスや増強された能力から価値を得る。企業買収者は、商品および販路を、これまで獲得できなかった顧客に拡大し、成長中の市場でさらに事業を拡大するための重要な選択肢を有することができる。コスト・シナジー・ターゲットおよび短期的な回収計算は、この取引では特に有用ではない。より関連があるのは、商品の現地販路についての特定のターゲット、または、市場内の顧客に対して提供されているサービスの定性的な措置、および、将来の事業拡大のための市場参入についての選択肢としての価値である。

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開始するためのチェックリスト

海外取引の成功企業事例に名前を連ねることが出来るようになるために行うべきことは、まず自社の状況を見つめ直すことである。取引種類に応じてM&Aの長所および能力ギャップの可能性を特定し、成功のための繰り返し可能なモデルを生み出すために、批判的に自己採点を実施することである。まずは、基本的な質問について自問自答することから始めよう。

  • 海外M&Aのためにどのように自社のM&A戦略をカスタマイズする必要があるか?
  • 自社のM&A戦略を推進していくうえで、今後数年間にわたりどのような人員を用いていく必要があるか?
  • 自社のM&Aプレイブックが海外および国内の様々な種類のM&A取引に活用できるようになっているのかどうか?何を改良する必要があるか?
  • 自社のパイプラインには、どのような種類の取引があるのか?
  • それぞれの取引について求められる手持ちのカードとそれと異なる資格は何か?
  • 取引を有効に実施し、完遂させるための十分かつ専任のM&Aおよび統合チームを構築するためには何が必要か?
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